オールドタウンの反乱 9

「僕はゼンガさんが好きだよ」
「お、前。よくそんな堂々と言えるな」
「いい人じゃないか。本当の父親のようで僕は大好きだよ」
「なんだよ、そもそもお前は父親なんかいないくせにファザコンなのかよ!!」
 これは不味い一言だった。勢いで言ったケイニーは気づいていないが、傍で見ている者がいれば間違いなくその言葉を訂正させただろう。
「ふうん。君はまだ言ってはいけない事もわからない子供なんだね。そんな言葉で別に傷ついたりしないけど」
「何度も何度も子供子供ってうるさいんだよ!」
「ああ、ごめん。つい本当の事を言ってしまって」
「ムカつく。やっぱりっていうか、いつもだけどはっきり言ってイラつくんだよ、あんたの存在が!
 いっつもいっつもオレの家に来やがって、まるで自分家のように飯食って、何様のつもりなんだよ!!」
「僕? ただのお客さんだろう? それとも君にとっては違うのかな? あ、ひょっとして実は心の底では友達だとか思ってた?」
「ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!!」
 ケイニーは口で勝てないもどかしさで半泣き状態である。
 そんな様子を見てマリトはゼンガ一家に会ってからの胸のつかえが取れるようであった。
 本当は一番傷つけたかったのはケイニーではなかったのだ。


 一方は気の晴れた顔で、一方は怒りが収まらない様子で視線を交わす。怒っている方は相手の怒気が抜けたため、自分の感情の持っていき場がない。
「ねえ」
「なんだよ」
「君は友達いるの?」
「は? なんだよ急に」
「僕は地球では何人もいたよ。こういう場所でも学校があるのは驚いたけど、そこで友達とかできるの?」
「いるに決まってるだろ」
「そっか、そうだよね」
「だからそれがどうしたんだよ!」
「両親がいて、友達がいる。片親しかいなくて友達がいる。地球にいるか監獄にいるかの違いは、その差では埋められないだろうね」
「は?」
「でも僕から見たら、君がちょっとうらやましいよ」
「なんだよそれ。普通に地球で暮らせるほうが断然マシじゃんか」
「うん、それには違いないけど。肉親っていうのはやっぱり特別なんだよ」
 そこでやっとケイニーが先ほどの自分の発言がどれほどの失言だったのか気づいた。だが気づいたからといって、いまさら謝りようもない。
「さ、喧嘩の声も聞こえただろうし、いい加減にゼンガさんとアシュカさんが心配するね。僕は先に戻るよ」
「ちょ、ちょっと待てよ」
「何? まだ続きしたい?」
「・・・・・・」
 ケイニーの方は不完全燃焼気味だったのだが、一度鎮火を見せた感情を再び沸点へ持っていく気にはなれなかった。ぷいと顔をそむけ、それを返事にした。


「また喧嘩だったの?」
「はい、すみません」
「いいえ、こちらこそごめんなさいね。ケイニーが何かしたのじゃない?」
「違います。今回は僕が悪いので」
「前にって、そんなにお前たちは喧嘩するのか?」
「そんなことない、と思うけど。私が見たのは一度きりだったし。ねえマリト君?」
「そうですね、そんなに喧嘩はしません。喧嘩といってもちょっとした意見の食い違いですよ」
「ふうん、マリトは喧嘩なんてしないように見えるけどな。やぱりそういう所もあるんだな」
「あら、あなただって昔ザムスさんと大喧嘩したじゃない。しかも殴り合いまでして、いい大人だったのに」
「そうだな、そんなこともあったな」



 そんな少しだけ日常と違う日が、穏やかな日常の最後の日となった。

(2013.3.3)