オールドタウンの反乱 6

 それからケイニーとマリトが仲良くなったかといえばなるわけがない。
 ただ、会話は以前より増えただろう。ほぼ口喧嘩とはいえ。
 ゼンガの思いとは別の方向でアシュカとケイニーの気がそれたため、計画のための時間を大いに割く事が出来た。
 帰りが遅い時などはうまくマリトがフォローしてくれる。本来のマリトの役目ではないが、ケイニーと仲良くなったと思い込んでいるゼンガはそれに甘えることにした。


 漠然としていた計画が、だんだんと現実味を帯びてくる。
 タウン自体は狭くないのだが、地球を知っている者達は急に息苦しさを覚えてきた。
 歩き続けても果てのない大地。窒息をする心配のない空間。
 タウン生まれの者はザムス達に加わってなかったため、作戦に参加する者たちにとって何年も前、もしくは何十年も前には当たり前だった環境だろう。
 計画への不安はあったが、もう一度地球に帰りたいという思いは、彼らの気持ちを高揚させた。
 しかし、一番最後に加わったマリトはそんな思いには駆られなかった。数か月前までは、ザムス達の焦がれる地球にいたのだ、温度差があるのは仕方がない。
 次第に練り上げていく作戦の密会には参加するが、必要がない時にはあまり姿を見せなかった。

 そうなるとザムスは巻き込んでしまったという罪悪感がこみあげてくる。
 気を使うザムスに、そんな必要はないとマリトは言い続けるが、結局ザムスは最後までマリトに対して申し訳なさが抜けなかった。
 そんなこともあり、マリトは頻繁にゼンガの家を訪ねた。ゼンガもザムスとマリトの事を気にしていたので、他に出かけるところもないマリトを喜んで迎えた。もちろんアシュカもそうだが、ケイニーは相変わらずである。
 しかしマリトの目的が、決してザムスから逃げるためだけではないというのは、さすがに誰も気が付きはしなかった。

「ゼンガさん、すみません。ただでさえお世話になってるのに」
「いや、こっちこそすまんな。ザムスが気を回し過ぎて」
「僕に気を使ってくれてるのは、分かるんですけど」
 今日も酒場で打ち合わせがあったのだが、ザムスの気の使いようにいたたまれなくなったマリトをゼンガが連れだしてきている。ケイニーと約束があるんだろ、と都合よく息子を使って。
「あいつに悪気はない、なんて事分かってるか」
「はい」
「まあ、なんだ。親子ほども年齢が違う上に、巻き込んだ負い目があるんだろう。今更だがな」
「本当に今更ですね。僕は自分で協力するって決めたんです。だから他の人に対するのと同じでいいのに」
 迷惑しているのもあるが、若干子供扱いが入っているのが複雑なのだろう。ちょっとかわいいなとゼンガは思う。ケイニーの方が表情豊かだが、最近はそれを自分に見せる事もないので。
「結局飯を食い損ねたな。どうする、どっか食べに行くか? それとも家へくるか?」
「え~っと、じゃあたまには食べに行きたいです。あ、僕と二人でもいいですか?」
「いい、いい。むしろ一緒に食べるのが俺でいいのかとこっちが聞きたいくらいだ」
「僕はゼンガさんといるの、楽しいですよ」
 この言葉にゼンガは感動してしまった。反抗期の息子は碌に話してもくれない。ついつい肩に手を回しマリトを引き寄せる。
「マリトはいい子だなぁ。ケイニーにも見習わせたい」
 いきなり首に手を回されびっくりしたが、そういう事かとマリトは吹き出す。
「僕は父親がいないし、母にもそれほど反抗したことはないですけど、友達はあんな感じでしたよ」
「そうなのか?」
「ええ。そのうち収まりますよ」
「まあ、そうなんだろうがなぁ」
「ケイニー君の場合は」
「ん?」
「一緒に発散できる友達が少ないのが、反抗が激しい原因でしょうね」
「ああ、そうだよなあ。遊びに来る友達なんて数えるほどだし、そもそも子供の数が少ないしな」
「そうですよね。ここに連れてこられるのが成人以上だし、仕方ないんでしょうけど」
「そうだな」
「僕が・・・・・・」
「どうした?」
「僕がケイニー君と友達になってよかったですか?」
「え? もちろん、よかったと思うよ」
「それは友達ができた事ですか? それとも僕が友達になった事?」
「マリト?」
「すみません。何でもないです」
 問われた問いに、ゼンガはどう応えるべきかしばらく悩み、結局答えを告げる事もなく店に着いてしまった。

(2012.6.6)