オールドタウンの反乱 3

 さて、結局マリトが作戦に乗った理由は何だったのか?
 さして強くもない酒を手で遊びながら、横に座るマリトに目を向けると目が合った。何故か慌てて目をそらす。その慌てようが年齢より幼く見えて、ゼンガはコロコロと年齢の見え方か変わるマリトに少し笑みをこぼす。

「で、マリト君の理由は何だったんだい?」
「え?」
「さっき、君の話を聞き損ねたと思って」
「あぁ、どうしてこの作戦に? という話ですか」
 マリトはあごに手を当て、少し考える。
「断る理由がない、が理由ですね」
「断る理由? 危険だ、というのは理由に入らないか?」
「僕に頼まれたのは、それほど危険な仕事じゃなかったので。別にいいかなと」
「別に、か」
 ゼンガとしては、それでいいのか? と思わないでもない。だが、このマリトは息子とは年が少し離れているが、間違いなく息子の世代なので、すぐに理解できないのも仕方ないと思いなおす。
 ゼンガにとって、息子の考えと言う物はさっぱり分からないものだった。
「あの」
「ん?」
「・・・・・・」
 マリトがじっとこちらを見る。一体何が言いたいのだろうと待っていると、名前は呼び捨てにし欲しいとのことだった。いくら息子のような年の子とはいえ、さすがに初対面の相手に呼び捨てはとゼンガは悩むが、マリトはどうしてもと言い張る。
「君付けは、ちょっと違和感が」
「あ~、ではマリト?」
「はい、それで」
 やっぱりよく分からない、とゼンガは思う。でも呼び捨てにしてみると、マリトの緊張が若干解けたのが分かるのでまあいいかとも思った。


 ふと見るとマリトの手の中の酒が減っていない。自分と同じくただ遊ばせているだけだ。
「やっぱり苦手だったのか?」
 目線を酒に落としながら聞くと、そうじゃないとマリトは首を振る。
「苦手じゃないですけど、空きっ腹にはちょっと」
「だったら何か食べるものを」
「いえ、顔合わせも終わったのでもう帰ります」
「飯は?」
「何か買って帰ります」
「・・・・・・自炊は?」
「苦手、というか今までほとんどやった事がありません」
「それは・・・・・・」
「ここに来るまでは母と暮らしてたので」
 実はゼンガも料理は得意ではない。買って済ませられるならそれを選択する。するが、実のところゼンガは今まで手料理にそれほど困ったことがなかった。つまり作ってくれる人が常にいる事が多かったのだ。

 そういえばザムスがマリトが一斉狩りで捕まったと言っていた。急に母親と引き離され、見も知らぬこの宇宙の檻へ放り込まれたのだ。ゼンガの中に急速にマリトに対する同情心が湧きあがってきた。
「よかったら俺の家へ来るか?」
「・・・・・・え?」
「家内が夕飯くらい作ってくれるはずだ」
「いや、それはご迷惑じゃ」
 だがゼンガは一瞬浮かんだ青年の嬉しそうな顔を見逃しはしなかった。
「ちょっと待ってろ、連絡してくる」
 ここでは誰も携帯電話を持っていない。その代わり固定電話は各家庭・店、その他要所要所に設置されている。もちろん盗聴されているのだが。

 電話で話すゼンガの後姿を見ながら、マリトはゼンガの申し出に自然と笑みがこぼれた。

(2012.3.7)