オールドタウンの反乱 2

 後日、首尾は? と聞くと、何とOKを貰えたらしい。
「まあ良かった、と言う所だが、何と声をかけたんだ?」
 いきなりこんな場所へ送り込まれた上、二十四の若造に即決できる計画ではなかったはずだ。どうやって口説き落としたのかが気になった。

「ここを脱出したいんだが、協力してくれないか」

「・・・・・・は?」
「だから、ここを脱出したいんだが、協力してくれないか。と言ったんだ」
 この檻の本来の意味を考えるならば、脱出ではなく脱獄だろう。
「よくそんな直球でOKを貰えたな」
「まあ何も警備兵に向かって突撃しろとは言ってないからな」
 確かに機械の腕が目当てなら、危険も少ないだろう。それでも"脱獄"に値するのだ。躊躇いはないのだろうか?

「そのうち一回みんなを集めるか、なあ?」
「あぁ、そうだな」

 ザムスがこの計画を持ち出したのはいつだったろうか?
 地球に帰りたいと言い出したのはいつだったろうか?
 今でこそ友人とはいえ、ここへ来てから知り合ったゼンガにそれを打ち明けたのはいつだったのか?

 最初ゼンガは猛反対した。馬鹿な真似はやめろ、無理だと。
 妻と子が呆気にとられるような殴り合いもした。まだ体力が有り余っていたから若かったのだろう。れから考えればかなりの時間が経ったはずだ。
 それでもザムスは諦めなかった。ゼンガもいつの間にか協力していた。それだけザムスには人を惹きつける何かもあったのだ。
 そしてその原動力となる理由にもゼンガは共感した。


 もう一度恋人に会いたい。


 その単純だが人間らしい感情に、ゼンガは協力してやりたいと思うのだ。他に計画に乗った者たちも似たり寄ったりな理由を抱えた者も多い。ゼンガのように何となく、というのは珍しい方だ。いや、先程一人増えたのかもしれない。





 さすがにある程度の自由は保障されていても、大規模な集会などは監視が付く。もちろん監視付きの前で脱出計画など練れるはずもなく、一番場所が取れ、怪しまれない酒場での会合となった。それでも全員は揃っていないが。
「ゼンガ、こいつだ。こいつがこの前話していたマリトだ」
 ゼンガが振り向くと、若干神経質そうな青年が立っていた。
「ゼンガ?」
「よろしく、マリト」
 ゼンガは手を伸ばすが、マリトはゼンガ? と呟いたままその手を掴まない。ザムスも怪訝な顔をし、マリトに軽く声をかける。
「す、すみません。マリトです、よろしく」
 人見知りするのだろうか? 慌てて手を握り返す青年にゼンガは好印象を持つ。
 やがてザムスは他の仲間に呼ばれ、青年はどうしたものかと立ちつくす。ゼンガは困った青年に手を差し伸べた。
「まあ座ったらどうだ?」
「え、はい」
「何か飲むか?」
「あの、酒・・・・・・ですか?」
「周りを見てみろ、みんな飲んでいる。あぁ、それとも飲めなかったか?」
「いえ、頂きます」


「な~に若い奴を一人占めしてるんだ、ゼンガ」
「オードル」
「どうも、あんたがザムスがこの前ひっぱって来た奴だろ。おれはオードル。こっちはブラン」
「どうも」
 先程ゼンガと話していた時とは別人のような堅い返事がマリトから返ってきた。あまり愛想がいいとは言えない返事に、オードルとブランは顔を見合わせ肩をすくめる。
「あっさりOKをくれたらしいじゃないか? 本当にいいのか?」
「・・・・・・僕が加わらない方がいいんですか?」
「や、そんな事はないけどな」
「皆さんは・・・・・・皆さんはどうしてこんな計画に乗ったんですか?」
「このまま一生をここで終えるのは嫌だからだ」
「今の日常がつまらない」
 オードルとブランはすぐさま理由を口にしたが、ゼンガはまだ口を開かない。が、マリトの視線を受けやっと口を開く。
「・・・・・・何となく」
「言うと思った」
「いつもそれだ」
 聞き慣れている二人はさらりと流すが、マリトは僅かに目を丸くする。
「ま、ゼンガはザムスの親友だしな」
 自分は冷めているのだろうか? と時々ゼンガは思う。脱走など計画して失敗した時を思うと恐ろしい。妻と子が心配するだろうし、その二人を残す事になったらと思うと躊躇う気持ちもある。

 しかしどこかでまあいいかという投げやりな気持ちがあるのだ。
 それがザムスに協力する一番の理由だと言ったら、あいつはどんな反応をするだろう?
「しかし、とうとう決行の日近づく、か」
「ああ」
「・・・・・・」
 計画自体はもう数十年前からあるのだ。しかし決め手がなかったザムス達に、中々決行の決意はつかなかった。このマリトの存在が、ザムス達の計画の大きな推進力となったのだ。

(2012.2.28)