オールドタウンの反乱 1

 暗い空に浮かぶ金属の檻、人々の夢はそうとしか見えなかった。
 一方的な居住権を与えられ、そこでの終生を押しつけられた犯罪者達。
 そう、人々が宇宙に見た夢の居住区は多数が刑務所としての役割しか果たせなかったのだ。




 金属の塊を出ればそこは死の世界。誰もそこに新天地を求めはしなかった。やがて政府は進まぬ移民にある政策を打ち出す。
 それが犯罪者への居住権の譲渡である。
 金属の塊の中や宇宙空間での作業に従事する代わり、ある程度の地球と同じ生活を保障された。
 地球の環境悪化の改善策として打ち出された宇宙への移民計画は、犯罪者へと押し付けられたのだ。

 ある程度の自由は与えられるため、移送者は軽犯罪者が主だった。やがてそれが知れ渡ると軽犯罪率は一気に低下する。誰もが地球にしがみついたのだ。
 しかしそれは犯罪と呼べない軽微な罪、また、スラム街など貧困層での一斉狩りなどで若者が集められる結果となり、それはすでに三十年以上も続いていた。



「また新しい居住区が出来たらしいぜ」
 一仕事終えて男達がたむろっていた酒場で誰かが呟いた。また宇宙の監獄が出来たのかと思いきや、本来の目的である移民用の町であるらしい。
 四半世紀前に比べ、最近は本来の目的用の建設が目立ってきている。一生を金属の檻に閉じ込められ、決められた作業に従事しなければならない彼ら元犯罪者にとっては、同じ鉄の中に住んでいても決して移り住む事が出来ない居住区である。

「新しい所か?」
「いや、ニュー3の所らしい」

 新規開発ではなく、既存のタウンの一部となるらしい。タウンはいくつかの居住区から成り立っている。初期に開発され、犯罪者を押し込めた居住区をオールドタウン。一般市民が移り住む居住区がニュータウンとなる。それらに古い順から番号を振るのだが、オールド1やニュー1と略される事が多い。ニュー3なら一般市民用の3番目のタウンという意味であり、更に居住区単位で表す時はニュー3-1などと表している。

 簡単な区別で分かる通りそれほど居住区は多くはない。一つのタウンに一つの居住区しかないわけではないが、それでも数えられる程である。ちなみに、この居住区はオールドタウン2の3番目の居住区である。

 オールドタウンは6まであり、2-3となればどちらかと言うと古い部類に値する。初期に移送されてきた者達は家庭を築き、子が既に成人している者も多くいた。勿論子供達にもここでの居住権が与えられ、そしてここ以外の居住権は与えられない。犯罪を犯したわけでもないのに、生まれた時よりその生涯の地を決められているのだ。


 ゼンガはその第一世代の人間であった。彼自身は犯罪を犯した事はないが、見境のない一斉狩りの時に犯罪をでっち上げられオールドへ送られたのだ。
 ただそれは珍しい事ではない、同じような境遇の者は全住民の半分以上はいる。特に女性に至ってはそれが顕著である。
 男とのバランスを取るために男以上に犯罪のでっち上げが多いのだ。それでも初期の労働の担い手と言う意味で集められた結果、絶対数では男の方が多く、時々居住区内で性犯罪まがいの事件も起きていた。
 その中でもゼンガは妻を迎え一男をもうけている。これが地球なら平凡な人生だっただろう。しかしこの監獄の中ではそれが如何ほどのものだろうか。
 だが地球への未練を薄れさせるのに結婚という手は効果があった。そのあたり政府の思惑通りで癪ではある。

「ザムス、抑えろ」
 ゼンガがボツリと前に座る男に呟いた。目の前のザムスと呼ばれた男の肩は震えている。だがゼンガの言葉に自分の状態を悟り、震えを抑える。それが出来ないほど若くはなかった。
「ゼンガ、オレの家で飲みなおそうぜ」
 急に立ちあがったザムスは、ゼンガの返事も聞かずに席を立つ。いつもの事なのでゼンガは軽いため息だけで彼の後を追った。



 ザムスは五十を過ぎて一人身である。特にここでは珍しいと言う事でもないが、彼は意図的に結婚を避けていた。ゼンガも何度も聞かされている、地球に婚約者がいるのだ。
 もちろんもう相手がザムスを待っている事もないだろう。帰ってこないと分かっているのだから。
 ザムスが軽めの酒を用意する。つまりは話があるのだ。が、何の話だ? と切り出しはしない。内容は察しがついている。
「この前こっちに来たやつらの中に、一人機械に詳しい奴がいる」
「この前? そういえば久しぶりに新人が来ていたな」
「あぁ。何人かに話しかけてみたんだがな、そいつの頭のいい事」
「そんな奴がどうしてこんな所に来たのか」
「それは・・・・・・まだ狩りがあるらしい」
「なるほどな、冤罪か。そうか、まだあるのか」
 ザムスは窃盗の罪で捕まったが、ゼンガは一斉狩りありきの冤罪である。

「もういい加減、それも終わったと思っていたんだがな」
 オールドタウンには地球の情報は中々入ってこない。娯楽番組はあるが、ニュース番組はない。先程のニュー3の新居住区の話も、看守と言う名の警備兵の話を誰かが小耳にはさんだのだ。
「そいつを巻き込むのか?」
「それはまだ考えてない。ただオレ達は今の機械に疎い。あいつが居るだけで成功率は絶対に変わる」
 結局巻き込むつもりか、とゼンガは確信する。別にザムスの計画には協力するつもりだし邪魔するつもりもない。ただ無関係の人間を巻き込むのは、と思うのだ。
「今で八十人はいる。あいつが協力してくれて、少し監視センサーなどをいじる事が出来れば可能性は格段に上がるんだ」
「そうだな。で、そいつは協力してくれそうなのか?」
「どうだろうな。印象としては物事にあまり深く考えないタイプだと思うが」
「軽い、と言う事か?」
「いや、興味がない。という感じだったな」
「そうか」
 性格的には悪くはない。が、犯罪者でない者を犯罪者にするのかと思うと気が重い。ただ、友人としては気の済むようにさせてもやりたい。
「今度そいつと会う約束をしている。お前も来るか?」
「相手は何歳だ?」
「二十四だ」
「・・・・・・若いな。そんな若い奴に五十過ぎの男二人で詰め寄るのか?」
「ははは、それもそうだな。何となくお前と気が合うと思ったんだが、今回はオレ一人で行くよ」

コメディ要素なし、まじめに書いていきたいと思います。少し長くなるので、文章はくどくなります。(たぶん)
(2012.2.20)