再び来た道を戻ったゼンガにザムスの叫び声が届く。
「来るなゼンガ!」
その言葉に何とか身を伏せる事が出来たのはただの偶然か。ゼンガの体の上を銃撃がかすめる。
「ザムス! もう動かせるはずだ。聞こえてるか!!」
「来い、ゼンガ。お前も一緒に」
「無理だ。ザムスだけでも」
「もう動けるのはオレとお前しかいない」
その言葉に目を凝らすと、一緒にいたはずのオードルは血だまりの中にいる。それでも最後の力で手に入れた銃の引き金を引いていた。
覚悟を決め、一瞬の銃撃が途絶えた瞬間に走り抜ける。
「ザムス、お前も撃たれ・・・・・・」
立ってこそいたが、ザムスのわき腹からも血が流れていた。
「ゼ、ゼンガ」
「オードル、今そっちへ」
「いい、来るな。それよりさっさとあれに乗りこめ」
「な、にを言ってるんだ。オードル!」
「み~んなでここに止まってどうすんだよ。動けるんなら行ってしまえ」
「だが・・・・・・」
「ゼンガ! お前さ。皆ここから逃げさせるとでも思ってたのか?」
「それは」
「俺は最後に好きな事出来たから満足なんだぜ。ついでにお前らが脱出出来たら言う事無いって」
オードルは笑っていた。
周りでうめく声がだんだん少なくなっていく。
ゼンガは手を伸ばした。ザムスに。
「ゼンガ、ザムス。じゃあな」
「ああ、また」
振り返るのが辛くて振り向かなかった。何度目かの銃撃が二人を通り過ぎる。先程からザムスはなにも答えない。
「ザムス、ザムス。大丈夫か?」
出血のせいで意識がないのかと思ったが、小さく返事が返る。
「俺はこんなの動かせないぞ、どうするんだ?」
コックピットに辿り着いたはいいものの、操縦の仕方など分かるはずがない。
「これは緊急の小型艇なんだ。簡単に動かせないと意味がないだろう?」
備え付けの棚からマニュアルを引っ張りだす。素人目でもボタン操作だけで何とかなりそうだった。
「なあゼンガ」
「ん?」
「俺、さっき何も言えなかった」
「さっき?」
「オードルが行けと言った時、一緒に残ると言えなかった」
ゼンガの手が止まる。
「こんな計画、絶対に成功するなんて確信はなかった。ただこのまま終わるなら、やれるだけの事はやってみたいと思ったんだ」
「それは、みんな同じ思いだろ」
「ああ、そうだよ。そうなんだ。だけど、あと一歩まで来てしまっただろ? 何としてでも帰りたいって思ったら、言えなかった」
今更何を言う! と怒鳴りつけたかった。
「それがなんだ! 地球に帰るんだろうが。グダグダ悩んでないで、お前もマニュアルを読め! 俺より頭が良いだろ? お前が一番帰りたいって言ったんだろ。違うのか!」
「ゼンガ・・・・・・そうだな。ああ、すまん」
ザムスは肩の力が抜けたように笑い、深く座席に身を沈めた。
『さん。・・・ゼンガさん?』
「え?」
『僕です。マリト』
「マリト?」
『すみません、通信を開いてました。ザムスさん、操縦はオートですが、発進の際の計器は確認出来るようにしてください。他はこちらで手助けできます』
「それは助かる。助かるが・・・・・・」
『僕がやりたいんです。それにあなた方が早く発進すればするほど、僕達も早く逃げれます』
「僕・・・・・・達?」
『オレだよ』
「ケィニー! お前もまだ」
『いいからさっさと発信しろよ。遠回しにオレ達を殺すつもりか?』
通信先からマリトの吹き出す声が聞こえて来た。
『それ最高』
『はぁ? お前どこにウケんだよ』
『いや、そういう言い回しが出来るくらいには頭が良かったのかと』
『馬鹿にするのもいい加減にしろ!』
『ごめんごめん、しかし君がここに来るなんて思ってもみなかったよ。正直びっくりした』
『うっさい』
『はいはい』
通信越しにその口喧嘩を聞いていたゼンガだが、不思議と昨日までの二人の不和感を感じなかった。
よかった。何故か二人は似ていると思ったのだが、最近は顔を会わせれば喧嘩をすることが多かった。だが今聞こえてくる喧嘩はそれとは違う。ほんの少しの間に何があったのか。しかしそれをもう聞き出す時間はない。
(2013.8.11)