『それでは、発進させます』
「ああ、頼む」
ザムスが計器に目を走らる。替わってあげられればいいのだが、こういう事ではゼンガよりザムスの方が役に立つ。
『僕達は発進させたらここを離れます。
だから・・・・・・これで最後です』
「マリト、本当に助かったよ。ここまで迷惑をかけてしまって、すまなかったな」
『いいえ。いいえ! いいんです。僕がやりたかったんですから』
「ケイニーもありがとう」
『べ、別にオレは』
『最後なんだから、素直になったらどう?』
『う、うるさい! それを言うならお前だって、言わなくていいのかよ。お前が』
『いいんだ! いいんだよ。君が知っているならそれでもう十分だから』
「マリト? 何か言う事があったのか?」
『いいえ、本当に何でもありません。では、行きます』
「ああ、頼む」
『・・・・・・じゃあな』
「ケイニー」
『さようなら、ゼンガさん』
「さようなら、マリト」
小型艇は射出された。
『さようなら・・・・・・さよなら』
マリトの声が爆音の中かすかに聞こえてくる。
『じゃあな』
今度はケイニーの声だった。
『父さん』
「え?」
ゼンガは通信機にかじりついた。
「ケイニー! マリト!!」
最後の台詞は一人の声ではなかった。
「ザムス、今二人から・・・・・・ザムス!!」
子供達の声に気を取られたゼンガは、ザムスの急変に気付けなかった。ザムスはすでに血の海に沈んでいたのだ。
「おい、ザムス、ザムスしっかりしろ! 見ろ、宇宙だぞ。俺達はあの檻から抜け出したんだ!!」
口元に手をやると、かすかに息はしていた。目の前に望むものがあるのに、それを目にしないつもりか。
「・・・・・・たい」
「え? なんだって?」
「帰り、たいな」
「ああ、そうだな。帰ろうザムス」
ゼンガはザムスの最後の時をじっと待った。
どれほど経ったろうか? 腕の中のザムスはまだ温かかったが、もう呼吸はしていなかった。
通信もすでに機能していない。
聞きたいことがあった、ザムスが死んだ今できるなら今すぐに引き返したい。
生まれた地球へ帰りたいと、確かに強く思っていた。なのに最後の最後で未練ができてしまった。
どうしてケイニーは追ってきたのだろう。
何故マリトはあんな無茶をしたのだろう。
そして通信から聞こえてきた最後の声は本当に二人だったのか?
その答えはもう、永遠に聞くことはできないのだ。
(2013.8.15)