「お前、何故ここに」
呆然とゼンガが呟く。
「ここからの操作が必要だろうと思ったから、センサーを止めた後急いで来たんだ」
「か、帰れ。帰るんだ!」
「嫌だ」
「マリト!」
「僕が・・・・・・僕がこの計画に乗った理由、知ってる?」
「何を」
「最初はなんとなくだけど、決心したのはあなたに出会ったからなんだ」
「は?」
「あなたこそ早くシャトルの所へ行って」
しかしゼンガは動けない。
「帰るんでしょう。恋人もいるんですよね」
「そんな、もう・・・・・・」
待っているはずがない。それにゼンガにとっての恋人はもう妻のアシュカなのだ。ならば何故計画に加わったのか、それは多分にザムスへの友情の面の方が多い。
だがそれはマリトの次の言葉に、ゼンガは口にすることができなかった。
「僕は生まれた時から父親がいなかった。そしてずっといなかったんだ」
「マリト?」
「ほら、早く行ってよ!」
「マリト。マリト!」
無理やり外に押し出されたゼンガは、閉じられた扉に向かい声を張り上げる。
「マリト、どういう事だ? マリト! マリト!!」
パーンという音が聞こえたのはそのすぐ後だった。大声を張り上げたのだ。警備兵に聞こえないはずがない。
慌ててゼンガは身を隠そうとするが横へそれる通路は遠い。
こんな終わりなのか? 死を覚悟しても、その時はやってこなかった。
覚悟して閉じた目を開けると、自分に向けられていた銃が転がってきていた。
「何してるんだ! こんな所で死ぬつもりなのかよ!!」
「ケィニー?」
自分の目が信じられなかった。
「お前、どうしてここに?」
「そんな事どうでもいいだろ。シャトル奪うんだろうが。早く行けよ!」
マリトと同じ事を言う。
「ここは危険だ。お前こそ早く帰れ」
銃に比べれば頼りない鎌を構えた息子。自分達の計画のせいで、息子に人殺しをさせてしまった。
震える手に叱咤しながらケィニーは動こうとしない父親に尚も促し続けた。
「いいから行けっていってるだろ! オレの行動を無駄にするつもりなのかよ」
「ケィニー、すまん。巻き込みたくなかった、お前を」
「・・・・・・るさい」
「ケィ・・・・・・」
「うるさいって言ってんだよ、いい加減にしろ!」
「ありがとう」
ゼンガは足元の銃を息子に投げ、最後の言葉を残した。
「巻き込めよ、最初から。息子なんだから」
聞こえるはずのないその呟きを背に受けながら、ゼンガはザムス達の方へと走り出す。
やがて引き返す事も出来なくなる。息子の元へ引き返す道はもうすでに爆発でありはしなかったのだから。
(2013.7.17)