激闘ウォーズ 激闘

 空は晴れ渡り、地上には天高く舞う砂埃。
 数万人が行進していたのだから当たり前だ。
 ミズヤ達初陣組はやや後方にて待機を命ぜられ、みなその顔には緊張の色を浮かべていた。
 誰も言葉を発しない。
 発することができないのだ。
 これから戦争が始まる、訓練では実感できなかった実践の開始である。

 母親であるセンはいつもの上官の顔に戻り、ミズヤを振り返ることもない。
 しばらくは自軍マンダルク、敵国双方のにらみ合いが続く。
 初陣組はたまらず言葉を交わし始めた。
「なあ、なんか変だと思わないか?」
「お前もそう思うか?」
「だって・・・・・・なあ」
 別に戦闘経験のない彼らが、戦場の機微を察したわけではない。
「武器ってどこにあるんだ?」
 そう、武器はどこにも見当たらなかった。
 彼らが軍人を目指した最大の理由がないのだ。
 ミズヤもベルク達と囁き合う。
「ぶっつけ本番だから、新人の俺達には支給されない・・・・・・とか?」
「それにしては、あまりにも何もなさすぎだろう」
 ベルクとガルが首をかしげる。
 そして戦場となるべき場所では、やけに救護班が多い。
 武器など使ったら巻き込まれるのではないか?
 そんな彼らにセンの一括が入った、いよいよ戦闘が始まるのだ。

 徐々に軍は前進していく、敵軍との距離は狭まるばかり、ミズヤ達は一体どうするつもりなのだろうと内心やきもきした。
「第一陣、突撃―――!!」
 号令がかかった。
 一番前にいた一群が突っ込む。
 拳を突き出して。
「ううぉおおおおおおおおお!!!」
 それは天地を引き裂くような叫び声だった。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・」
 初陣組は一斉に息を飲んだ。
 目の前で自軍が敵国に向かい殴りかかっているのだ。
 そう、武器など持たず。
「つ・・・・・・突っ込んでる」
 目の前の光景は訓練そのままだった。
 ただ違うのは相手を叩きのめす意気込みの違いか。
「お前ら、武器でも期待したか? 危険物所持禁止令など、子供でも知っている法律だぞ」
 センが地獄の鬼のような笑顔を浮かべて振り返る。
 皆魂が抜けていくのを感じた。
 この初戦まで、武器を触れるからこそどんな訓練にも耐えたのだ。
 それが全て無駄だった。
 いや、無駄ではない!
 なぜなら彼らにも出陣が迫っているのだ。
 鍛え上げたその体で敵にぶつかっていけ!!
 その時、ふとミズヤが恐ろしいことに思い当った。
「なあ」
「ん?」
 同じく放心していたベルクが上の空で返事をする。
「確か、戦死者って数人いたよな」
「・・・・・・確かにいた。年に数人。
 な、殴り殺されてるってことか・・・・・・」
 その呟きに周囲が震え上がった。
 今分かった、周囲に救護班が多いのが。
 そりゃあ殴り合えばけが人は続出するだろう。
 そして接近戦だからこそ、救護班に拳を向ける者はいないから戦場の近くでも安全なのだ。
「おい、お前達! 合図が来るぞ!!」
 センが声を張り上げる。
 そう、いよいよ彼らの出番なのだ。
 一年もの間抱いた望みが打ち砕かれ、茫然自失の彼らに容赦なく突撃命令が下る。
 軍人なのだ。自ら選んだのだ。上官には絶対服従するしかないのだ。
 全ての者の中で何かが切れた。
「う、ううぉおりゃあああああああああ!!」
 ミズヤ達は鬼の形相で突っ込んでいく。
 それを見送る上官達の顔は・・・・・・素晴らしいまでの笑顔だった。

 彼らの激闘が始まる


-完-

これはギャグだと自分では思っています・・・・・・でも何だかジャンル分けしにくい話ですね。
ネタだけは十年近く前に思いついていたのですが、細かい設定は書きながら決めたので相変わらず行き当たりばったりです。
「饗宴」で男性も納得できる・・・・・・と書いてた事ですが、バークはただ奥さんを愛してただけなんですよ。ね、納得の形だったでしょう(笑)あんな書き方すると、引く方がいるかな~とも思ったんですけどね。
それではへんてこりんな小説を読んでいただきありがとうございました。
(2010.1.29)