激闘ウォーズ 短編

『名前の由来』

「ミズヤの名前の由来?」
 センは首を傾げた。
「そう、何だか変わった響きだろ? 俺の外見もこうだし神秘的だって言われて」
 そもそもこの国では珍しい黒髪のミズヤ。基本的には東洋系に見える所は母親似で、瞳の色だけは父親譲りの青なのだが、色が深いため角度によれば黒にも見える。
「・・・・・・・・・・・・」
 その会話を聞いていたバークが目線をそらす。
「ん~、それは・・・・・・母さん達が東の基地に配属になった時」
 センがいつもとは違う歯切れの悪い言い方をする。
「あー、そこで知り合った人が話していた響きが気に入ってつけたんだ」
 いつもは母親モードになるセンが、なぜか上官の口調のまま続ける。
「ふ~ん、それで意味は?」
「べ、別に知らなくてもいいんじゃないか?」
 と横から父親が口をはさむ。
 しかしそんなことを言われれば尚更聞きたくなる、何しろ自分の名前の意味なのだ。
「・・・・・・台所だ」
 少し言い淀んでから、意を決してセンは告げる。
「・・・・・・・・・・・・え?」
「まあ食器を入れる棚の意味や、他にもいくつかあるがな」
 というバークの声はミズヤには届いていなかった。
『おはよう「台所」』
『「台所」、今日は飯何食べる?』
 思わず自分の名前を台所に変換し、落ち込むミズヤ。

 それから先、名前の由来を尋ねられると・・・・・・
「知らない」
 と答える彼の姿があった。



『あの時の贈り物』

 シエラは戦闘時以外はいつもネックレスを着けていた。
 その時でないと引きちぎってしまう恐れがあるからだ。
 送り主がそれに気づいたのはしばらく経ってからだった。
 とんちんかんな贈り物をしたと思った送り主は、それ以来アクセサリーの類を一切送らなかった、結婚指輪を除いては。



『馴れ初め』

 正装したセシリアの姿に半分が狂乱し、半分は肩を落とした。
 その反応の最初は男で後が女だ。
 セシリアが女だということは知っていた。
 だが、戦闘服に男女の違いなどほぼないので、女達はみなセシリア、センを偶像化していたのだ。
 男よりも強く、男よりきれい。
 その存在がスカートをはいているのだ。
 男達は逆にセンを恐怖視していた。
 男を男と思わず強気に出、自分達より強く、自分達よりかっこいい。
 普段が男のように見えるので何とか保っていた矜持が崩れ落ちていったのだ。
 その日の様子は見ものだったと、後々目撃者達はセンのいないところでこぼしている。
 その目撃者の中に、士官学校を出て数年目のバークもいた。
 センは世間一般のド真ん中を行く美少年、のごとき女性であったので、顔は良いのだが少し暗い印象を与えるバークは、すっかりセンに隠れてしまっている。
 本人は全く気にしていないが。
 同期の中にはセンの美しさに一目置く者たちもいたが、自分に対し不埒な真似に出る者にはたとえ上官であろうとも遠慮のない仕打ちに出るので、今ではよっぽどの命知らずしかセンに近づく者はいない。
 バークにいたってはそれほど興味すらなかった。

 ある日、休日にバークの友人が誰かと組み手をしていた。
 何気なく目をやると、相手はセン。
 目立つセンの事、さすがに興味はなくてもバークも足を止め、近くに居た別の友人に尋ねる。
「・・・・・・一体何の騒ぎだ?」
「ん? ああ、ほらロズナンの奴、センに惚れてただろ? 告白したつもりがいつの間にか手合わせに発展してな」
「??」
 意味がわからない。どうして告白から手合わせになるのか。
 しかも一方的にロズナンがやられている。
「やっぱり強いな」
 と、バークは感心する。
 センはまだ二十歳前後の女性のはずなのに、標準体型は軽くクリアしているロズナンが手も足も出ない。それほど弱い男ではないのだが。
「だよな~、ちょっと俺も一戦交えてみたいな」
「・・・・・・そうか?」
「え! 強い奴とは戦ってみたいとか思わないわけ?」
「う~ん」
 強い奴と戦ってみるというのは男として軍人としてそう思わないこともないのだが、相手がセンだと何かが違う気がするのだ。
 ロズナンが沈んだ。
「けっ! その程度の強さしかない癖に俺に付き合ってくれだぁ? ざけんな!!」
 手合わせでも容赦なかったが、言葉でも容赦ない。
「ははは・・・・・・」
 さすがに友人が情けないと思ったのか、隣の友人もから笑いをする。
「でもセンより強い男なんていないと思うよ?」
 周りの見物人がセンに声をかける。なぜか観客は女性が多い。
 男が馬鹿にされているなと思いながら、バークは友人を救護室へ運ぶべく抱き上げようと近づき、そして何気なくセンに忠告した。
「セシリア君、あまり無茶をするものじゃないよ」
「!!」
 周りは息を飲んだ。
 何と命知らずなのだろうと。
 センもあっけにとられ立ち尽くす。
「お、おい馬鹿! なに言ってるんだ」
 あわててさっきの友人がバークを引っ張っていこうとする。
「何って、こんなことをして本当に強い奴に出会った時困るだろう」
 バークはさも当然のことのように言う。
「そ、それは自分の事を言ってるのか?」
 やっと衝撃から立ち直ったのか、センがバークに声をかける。
「俺が? まさか、君にはかなわないよ」
 そうなんだ、と思わず納得しそうなほどあっさりと言い切った。
「やってみなけりゃ分からない、くらい言えないのか!!」
 あまりの展開に頬を染めたセンがかみつく。
 その様子に周りがだんだんと離れ始めている。
「無謀と意地を通す場面じゃないからね。それに・・・・・・あまり君を殴りたくはないかな」
 言外に女性だし、という意味を込めたのだが、周りはセンを殴れる自信はあるのかと恐怖する。
 しかしその中で一人だけその言葉の意味を正しく汲み取った者がいた。
 セン自身である。
 黙り込んだセンを訝しげにバークは見つめる。
 少しきょとんとした顔は普段の暗さを取っ払い、幼く見せた。
「セシリア君?」
「は・・・・・・はい」
「・・・・・・・・・・・・え?」
 これはさすがにバークも引いた。
 言葉から普段のトゲトゲしさが消えていたのだ。
「あ、な、名前聞いてもいいですか?」
「あ、ああ。バークだが」
「バークさん・・・・・・」
 ケンの取れたセンは年相応の女性に見えた。
 普段センにそれほど興味のなかったバークにはそう見えたのだが、あいにく周りはそうは思わなかった。

 怖い、怖すぎる!!

 普段とのギャップにクラクラしていた。
 この時の事がトラウマとなり、センの周りは彼女を腫れもののように扱うことになる。とくに男は。
 バークは引きつつも、それでも答える。
「な、何かな?」
 少し戸惑いながらも普通に声をかけてくれるバークにセシリアはコロリと転げたのだ。


 やがてミズヤが生まれる。


-完-

本編ではあれがどうなった、など一切放置していたので多少のフォローの意味を込めての短編です。
「名前の由来」は最初にミズヤの名前を考えた時、私が水屋から取ったのでそのまんまのネタです。
ミズヤは「ミ」にアクセントを付けてくださいね、「ヤ」だったら本当に水屋になってしまいますし(笑)
「あの時の贈り物」もそのまんまです。
ミズヤとシエルの関係の結末です。
「馴れ初め」は私の中では思いどりに書けたな~と思う作品です。
あのセンがどうしてバークにベタ惚れなのか、を書いてみました。結構バークは私の理想かも??
「激闘ウォーズ」は本編とこの短編で全て終わりです。
お付き合いいただいた方、本当にありがとうございました。
(2010.2.10)