激闘ウォーズ 訓練

 その一撃は親子関係を知っているベルクも疑う程の容赦ない強烈な一撃だった。
 昨日、感動だったろう再会を果たして帰ってきたミズヤは複雑な表情を浮かべていた。
 どうだったと聞きたい気持ちを抑えるしかなく、とりあえずミズヤとメシュナー中佐夫妻の関係はガル達だけには話しておいたが、家庭の事情だし吹聴することでもないとベルクが変な気を回したせいで、あの食堂に居合わせた事情を知らぬ者達は、バークとセンの関係を色々噂している。
 取り立てて隠すような関係でもないので誤解を解いてやればいいのだが、変に友情心を発揮したベルクは人の噂も七十五日と楽観視していた。
 まあそれもいずれは知れ渡り、変な噂など消えるだろうが。

 次の日からの訓練は容赦なく行われている。
 親子の愛があるかと疑いたくなるほど、センのミズヤへの攻撃はえげつない。
 それがさらに変な噂を助長させたりもしているのだが。
 酷使し続ける訓練の見返りに週一できちんと休みもあるのだが、ここでもほとんどの者は体の調整に勤しみ、休みらしい休みなど誰も取っていない。
 ミズヤに至っては父や母に呼び出され、今までの空白を埋めるかのように絡まれまくり、よけいに心労が続いていた。
 父はともかく、母のセシリアの性格の豹変ぶりには子供の頃と違う意味で悲鳴を上げたくなる。
 どうにも上官のセンのイメージが強く、あれほど母に焦がれていたはずなのにストレスしか溜まらないのだ。
 しかも訓練の間は息子とも思えない攻撃をしてくるので、同室の者以外は誰もセンと親子だと中々気付かない。
 さすがにミズヤも何やら変な噂が流れている事に気付いたが、それを訂正する気すら起きてこなかった。
 その母に触れる度、なんとなくシエラに会いたいと思うのだが、それがなぜか分からない鈍感なミズヤは結局自分から行動を起こせない。
 そんな日々を送るミズヤに唯一残された希望は、他の入隊者と同じ所に至った。
 すなわち武器を思いっきりぶっ放したい!!
 ミズヤも男であり、人並に武器に憧れていたのだ。
 日々の訓練では「危険物所持禁止令」もあり、そうおいそれと使う事は出来ないのだろう。
 だが全く戦争が起きていないわけではないマンダルク、いつかはまだ見ぬ武器に触れる時が来るはずだ。
 それはすべての新入隊員の一致する希望でもある。
 その希望だけでミズヤ達は黙々と訓練に耐え続けた。
 夢に向かって汗を流す姿の何と美しいことか。
 実際の打撲だらけの姿など霞んでしまう。
 彼らは着実に力を付けて行く。
 センの訓練は厳しいが、確かにセンは強いのだ。
 それが身にしみている新入隊員は、やがてセンが女だと知るが侮る者など誰もいなかった。
 そんな事をしたらどれほど恐ろしい目に遭うか、誰の目にも明らかだったからだ。

 やがて戦術論なども学ぶようになり、訓練にも慣れたミズヤ達はやっと余裕を持てるようになる。
「なあミズヤ、結局シエラとどうなってるんだよ?」
 髭を剃るため列に並びながらベルクはそっとミズヤに聞いた。
 刃物の所持を厳しく制限する「危険物所持禁止令」、略して「危禁令」は、伸びてくるモノを切ることまでは禁じられていない。
 だが、髭を剃るなど刃物を使う行為は、どの家庭にも備え付けられているセンサー室に入って行わなければならない、もちろん定員は一人だ。
 回転の遅さから新入隊員でも部屋に一つは付いている。
 なので、髭を剃るときにはこうやって部屋で並ばなければならないのだ。
 ちなみに髪を切るときは同じくセンサー室に入るか、政府公認の美容室に行き、厳重な監視の元行われる。
「ど、どうって・・・・・・」
 ミズヤは気づかれていないと思っているが、しょっちゅうミズヤと行動を共にしているベルクにはバレバレだった。
 最近身体的にも余裕が出来てきたことで、他の部分でも余裕が出てきたのだ。
 ミズヤが最近「ちょっと・・・・・・」と言って行動を別にするとき、いつもニヤニヤと笑いながら見ていた、それを周りに言いふらさないのだから、進展状況くらい聞いてもいいだろうとミズヤに詰め寄る。
「お先~」
 しかしその質問は先に入っていたガルが出てきたことで中断された。
「ほら、空いたぞ、先に行け」
 と無理やりミズヤはベルクをセンサー室へ押し込む。
 シエラとの関係、考えるだけで顔が赤くなるのを感じる。
 別に話すこと自体は抵抗はないのだが、シエラが今までの自分の好みのタイプと全く違うのでなんだか照れてしまうのだ。
 だがまだベルクはいい。
 父や母には知られたくない、元々父は自分を溺愛気味だったが母もあそこまでとは思わなかった。
 訓練の時はあれほど厳しいのに、休日になり自分を部屋に呼ぶと溢れんばかりの手料理が並べられているのだ。
 嬉しくないわけではないが、今まで免疫がなかった分多少重荷に感じる。
 悪気がないのも分かるのだが、どうも母は自分の年齢を勘違いしているのではないかと、時折疑いを持ってしまう。
 あと驚いた事といえば両親の仲の良さだろうか?  離れて暮らしていたわりに仲が良く、特に母の方は父にベタ惚れだった。
 そのうち「お兄ちゃん」と呼ばれる日が来るのではないかと密かにミズヤは疑っている。
 しかしそんな悩みに捕らわれるのもあと少しの間だけであった。
 いよいよミズヤ達に初陣の日が迫ってきていたのだ。

話が一気に進みました。
この回だけで約一年が流れてます、ここまでが遅かったのに極端ですね(笑)
(2009.12.29)