激闘ウォーズ 再会(前編)

 朝は思ったより早く訪れた。
 地や汗やそれ以外のものが染み込んだ地面をベッドに寝るのはそれほど気持ちいいものではない。
 いや、地面の事は置いておいて状況が状況なら楽しめるのだろうが、殴り倒された事による睡眠は彼らに快眠を与えなかった。
 気だるさと節々の痛さに目が覚めた新人達は休みの半分を無為に過ごしてしまったと嘆きながらも、何故今日が休みなのかを深く噛みしめ、多くは風呂に入るため部屋に引き揚げて行く。
「おう、おはよう。今日が休みってこういう事だったんだな。いや、むしろ休日に感謝か」
 目が覚めたベルクが同じく目覚めたミズヤに声をかける。
 お互い土と血にまみれていた。
「風呂、入りたいな」
「そうだな」
 饗宴の名残が体中に残っている。
 風呂は共同風呂なので今頃ごった返しているだろうが、汚れを落としたいので待つしかない。
「とりあえずリーダー達を起こすか」
 意外と仲間思いなベルクに同意し、ミズヤもまだ眠っている同室の者達を起こしに回った。
 目が覚めた同室の面々は、打ち身だけで大した怪我もしていなかったが、それでも節々が痛むのか顔を顰める。
「いや、まいった」
 と一番ガタイが大きいが故に、的になりやすかったバックルが頭を押さえる。
 たんこぶができているらしい。
「別に軍を侮ってたわけじゃないんだが・・・・・・」
 周りに煽られ、結局乗せられてしまったコミュがため息を吐く。
「うん、でもみんな結構強いんだね」
 少々幼く見えるルージルが朝からはしゃぎ、そしていつしか話題はセンへと移る。
「しっかし、セン大尉にはまったく手が出なかったぁ」
「なんだ、挑戦したのか?」
「そ、ミズヤと二人で挑んでみたんだけど、これがあっさり」
「まさに手も足も出なかったな」
「まあ、俺はそうだけど。
 ミズヤ、お前は最初いい感じだったのにな」
「最初の一撃か? 俺にも何で避けれたのか・・・・・・ただなんとなく父さんの戦いに似てる気がして」
「あ、なるほど、軍隊式とか?」
「さあ」
「でもあんなに強いのなら、武器なんていらないだろうな」
『・・・・・・』
「確かにどうしてここまで体を鍛えないといけないんだろうな? もっと武器の知識とか、俺たちに足りない事があるだろうに」
「僕も早く武器を触りたい、いいや見るだけでもいいんだけど」
 ルージルが大げさな身振りで話に割り込むと。
『俺も』
 と、ミズヤ、ベルク、ガルが即座に答える。
「オレも、そうだな」
 ややゆっくりとバックルも応じる。
「おれも、早く触りたい」
 どちらかと言うと無口な部類に入るコミュも控えめに応じる。
 結局みんな一緒なのだ。
「ま、今は取りあえず風呂だな」
「そうだな」
「お前、泥ついてるぞ」
 大声をあげて笑う、体は痛いが楽しかった。
 これから始まる軍隊生活、この仲間と過ごしていくその未来に心が弾む。
「そしてもう一度寝たーい!」
「俺も」
「賛成」
 風呂に入ったら、折角の休日だがみんなで寝よう。
 皆、そう思った。

 風呂は数十分待ったがその間も話す事に夢中で、湯を浴びて少しさっぱりすると腹が減ってきた。
 食堂の時間は決められていたが、昨日今日は時間外でも開いているらしい。
 新人に優しい食堂である。
 その食堂も賑わっていた。
 周りにはミズヤ達と同じように、たんこぶや青あざを作った同期達で溢れており、中には昨夜、拳の矛先を同室の者に向け、喧嘩に発展しているところもあった。
 ミズヤ達はそんな事はしなかったので、和やかに食事が始まる。
「しかしミズヤ、これじゃあ全く探す時間がないな」
 ベルクが食事の合間に呟く。
 確かにここに来てから殴り合いくらいしかしていない。
「まあ、まだ二日目だ」
 母を探す時間はまだまだある。
「ん? 何の話?」
 ルージルが疑問に持つが、何でもないとベルクが応じる。
 そう一日や二日で見つかるわけがない、早く会いたいとは思うが同じ基地にいるのだ。
 決して母の存在は遠いものではない。
 その時食堂が騒めいた。
 センが現われたのだ。
「びっくりした・・・・・・セン大尉もここで食べるのかな?」
「さあ、士官用のがありそうだけど・・・・・・そういえばセン大尉ってフルネーム何だろう? ファーストネームかラストネームなのかも分からないな」
「あ、そういえばフルネーム聞かなかったね」
 ルージルが首を傾げる。
「それに歳も謎だよな、士官学校出なら若いだろうけど、一般で入隊したなら結構な歳だよな」
 ぱっと見た感じは黒いサングラスのせいもあってか二十代にも三十代にも見える。
「あの体力は二十代じゃないか? もしくは三十過ぎ辺りか」
 コミュも話題に乗ってくる。
「一回グラサン取ったとこ見たいよな」
「でもよく考えたら軍の中でグラサンなんかしていいのか?」
 ガルが素朴な疑問を口にする。
「病気、とか? 目が弱いとかさ」
「なるほど・・・・・・」
 ぼそぼそぼそと六人は話し込む。
 なので近寄ってくる人影に全く気が付かなかった。

「俺の歳と目の具合がそれ程気になるか」
 まさに話題の真っ最中の人物だった。
『!!』
 一同は直立不動で立ち上がる。
「なかなか面白そうな話をしていたな」
 唇の端を持ち上げ、サングラスの中からミズヤ達を見回す。
「返事は!!」
『イエスサー!』
 そしてミズヤに目を向ける。
「お前。昨日、どうして最初の一撃を避けれた?」
 話を振られると思わなかったミズヤは一瞬言葉に詰まるが、慌てて答える。
「以前、同じような動きを見たからであります!」
「同じ・・・・・・」
 そう、あの一撃は昔手合せした父と同じ動きだった。
 だからミズヤ達が軍での訓練のせいかと思っても仕方がないのだが、センは何故か不意に落ちない顔をしている。
 あの時センは我流で戦っていたのだ。
「まあ、いい。お前名前は?」
「ミズヤであります。ミズヤ・メ・・・・・・」
「ミズヤ! ミズヤだと!?」
「は、はい。いえ! イエスサー!!」
 自分の名前がどうしたのかとミズヤは驚く。
 センはミズヤに近づき、まじまじと顔を見つめ、それでは飽き足らず顔に手を添え、ラインをなぞる。
 ミズヤは文句も言えず直立不動の姿勢を崩さず耐え続けた。
「ミズヤ、ひょっとしてお前の父親は・・・・・・」
「はい、そこまで」
 と、センの体がミズヤから引き剥がされた。
 声だけで相手が誰だか分かり、センは急に口調を変える。
「バークさん!」
 語尾にハートマークを付けそうなセンの言葉に、ミズヤを含め皆どん引きする。
「二人とも探したぞ」
 二人、と言うことはセン大尉と自分かとミズヤは内心首を傾げる。
「バークさん、あのね・・・・・・」
 センが抱きつくようにバークに何事が尋ねようとするが、バークは照れたように慌ててセンを引き離す。
「こら、人前でやめなさい」
 人前でなかったらいいのかよ! と周りが突っ込むが、息子のミズヤは冷や汗が流れる。
 まさかまさかまさか・・・・・・いや俺が生まれてるんだ、そんなはずはない。
 と言う息子の葛藤を見抜いたのか、父親は慌てて誤解を解く。
「ミズヤ何だその目は! セシリアは女だぞ」
 とセンを指す。
『えぇーーーー!!』
 上官の前だと言うことを忘れ一同は悲鳴を上げる、いや悲鳴は失礼か。
 その周りの反応にバークはセン、いやセシリアがセンとしか名乗っていない事に気づく。
「お前、またちゃんと自己紹介をしていなかったんだろう」
「だって、わたしは女です。なんて自己紹介変でしょ」
 変云々の前に、性別が分かる行動をして欲しい。
「君の言動は周りを誤解させるんだ」
 その通りだと皆バークを支持する。
「それよりバークさん、ミズヤって、ねえ!」
「はいはい、とにかく場所を変えよう」
 父親に促され歩き始めたミズヤは、何とかセンが女だったという衝撃から立ち直ったが、新たな事に頭が回り始めた。
「と、父さん。
 セシリアってひょっとして」
 家族とは言え上官に対し父と呼んだことにその動揺が表れている。
「まあまあ話は私の部屋で」
 バークはセシリアを促し、片手にミズヤをひっつかみ笑顔で「騒がせたね」と去っていく。
 ベルクだけはピンと来た。
「早く見つかって・・・・・・よかったな」
 ミズヤの背中に向けボソリと呟いた。

この小説はこの「再会」と武器がない世界というのを書きたくて思いついた小説です。
これでほぼ半分、折り返し地点です。
(2009.12.3)