激闘ウォーズ 饗宴

「う、うぉぉぉぉぉ!!」
 一同はやけっぱちになった。
 身近な仲間に向かっていく者や、センに向かっていく者。
 まさに大乱闘だった。
 ミズヤ達も例外ではない。
 ただ同じ部屋の仲間に向かって行かないだけの理性はあった。
 組み易しと見てか、ミズヤにマッチョな男が襲いかかるが、難なく躱し腹に一撃を叩き込む。
「やるう」
 とベルクは口笛を吹きかけたが、あわててその場を飛び退く。
「う、おぇぇぇぇ・・・・・・」
 おそらく夕飯が遅かったのだろう。
 腹に一撃を食らった男は先程食べた物をリバースし始めた。
「お・・・・・・親父さんに感謝だな」
 ミズヤの父バークの言葉がなければ、ガル達も夕飯を遅く取ったかもしれない。
 ミズヤを含め同室一同は優しきバークの言葉に心で涙した。
(ありがとう! あなたのような人が上官ならどこへでもついて行きます!!)
 あながち冗談でもなくそう思った。
 同じくセンの言葉を忠実に守った者も心に刻んだ。

 上官の言うことは聞き逃さず守るべし!

 守らなかった者の末路は哀れだ。
 中には自ら吐いたものと鼻血を顔に張り付けながら気絶している者もいる。
 ある意味、阿鼻叫喚の図であった。
「おい、そこ後ろだー」
「逃げるなよ、思いっきりやれ~」
 周りを上官が囲っている理由が分かった。
 逃げ出さない為もあるだろうが、どうやら新人達の乱闘を見るのが毎年の娯楽らしい。
 どの新人も腕には自信があるから見ごたえがある。
 その中でやはりセンが一番目立ってはいたが。
「よっ、はっ・・・・・・と」
 ベルクはどちらかと言うと軽快に戦う。
 フットワークが軽いのだ。
 ミズヤもそのタイプだし、同室のコミュもその部類に入る。
 一番の体格を誇るバックルは一撃が重い。
 ガルとルージルはその中間と言ったところか。
 なんとなしに出来上がったチーム力のおかげか、円陣を組み背後を取られないようにしているおかげで、まだ誰も沈んでいない。
 よしんば沈んだところでみっともなく胃の中をぶちまける心配はないのだが。
 その時ふいにベルクが腕を引いた。
 近づいてきたのが女だったのだ。
「あ・・・・・・・・・・・・」
 思わずミズヤは声を上げる。
 先ほど食堂でばっちり目があった女性だった。
「やっ! あんた、結構強いね」
 戦いに来たわけではなく、雑談をしに来たらしい。
 ベルクが隣でニヤニヤしている。
「あたしシエル・ローン。とりあえずよろしく、かな?」
 と言って手を差し出してくる。
 周りが沈んでいく中、ミズヤとシエルは仲良く握手する。
「よ、よろしく」
 決して満面の笑みではないひきつり笑いを浮かべるミズヤに、シエルは自分がミズヤの好みの範疇でないことに気づき、がっかりする。
「ひょっとしてガタイの大きい女は苦手な方?」
 そう言われて「はいそうです」と言える性格をミズヤは持ち合わせていない。
「え・・・・・・と、その。・・・・・・別に」
 かと言って上手くかわせるほど女性に慣れてもいなかった。
 それが態度に丸わかりに出るので、シエルは思わず微笑む。
「そっか、あたしは友達か、出来ればそれ以上になりたいと思ったんだけど、苦手なら仕方ないね。
 でもよかったら友達か、知り合いくらいの位置には置いてよ」
 と言って魅力的なウィンクをする。
 それはミズヤの周りにも影響を及ぼした。
「なあ、そんな奴より・・・・・・グヘッ!!」
 寄ってきた男は一撃のもとに倒された。
 その体格に見合う素晴らしき格闘能力だ。
 おそらくミズヤより強いだろう。
「んじゃ、お互いがんぼろうね」
 そうしてあっさりと身を引くかに見えたが。
「でも、あたしって結構粘るから嫌なら本気で嫌がってね」
 と言って身を翻し、ミズヤの頬に軽くキスをする。
 シエラはミズヤより背が高いため、上から降ってくる優しいキスだった。
 そう、まるで母のような・・・・・・
「おい、ミズヤ!」
 ぼうっとしているミズヤに誰かの拳が降ってくる。
 油断しまくっていたミズヤは思いっきり吹っ飛ばされる・・・・・・が、それで気絶するほどやわではなかった。
 ミズヤは今の照れを隠すため、自ら殴り合いの真っただ中に突っ込んで行く。
 それはさすがに無謀だったが。

 一方センの周りでは吹っ飛ばされた者が山積みとなっていた。
 吹っ飛ばされるかもしれないという悲壮な気持ちで突っ込む面々の胸に秘めた思いは一つ。
 昇進すれば武器に触れる機会が早く訪れるかもしれない!!
 その一念であった。
 「危険物所持禁止令」はそれほどまでに若者の中に武器への憧れを抱かせていた。
 包丁、カッター、挙句の果てには髭剃りまでも規制されているのだ。
 その抑圧は尋常ではない。
 その抑圧を新人達はこれでもかと言うほどぶちまけた。
 周りの人間に煽られ更にハイになっていく・・・・・・
 もはや止められる者など誰もいなかった。
 むしろけしかける野次馬はいたが。
 皆体力がつきかけている中、一人センに変わった様子はない。
 これが新人との差なのだろう。

「行くか」
 グイと口元の血を拭い、ミズヤは気合いを入れなおす。つられてベルクも気を引き締めなおした。
 ミズヤもベルクも血気盛んな若者には違いなかったのだ。
 ミズヤとて母を探しにという大義名分があるが、人並に武器に憧れていた。
 武器への近道があるならやってみるのも悪くない。
 というか、この二人も周りの雰囲気に飲まれていたのだが。
 沈んだり沈みかけの仲間を見捨て、壇上へ近付いて行く。
 さすがに間近に近づくとセンの恐ろしさが身に沁みる。
 どちらかと言うとスレンダーな体に恐ろしいまでの強さと体力がある。
 しかし勢いに乗っている二人は無謀という言葉を捨て去っていた。
 一応センは戦い続けているのだから疲れているかもしれないと、薄い望みを胸に抱く。
「何だ、まだ来る奴がいるのか?」
 あっさりと二人に気づいたセンは、今つかみ上げている大男を放り投げ、二人に向き直る。
「っしゃあ、行くぜ」
 先にベルクが仕掛け、後ろにミズヤが続く。
 ベルクは後ろのミズヤの布石のつもりで突っ込んだので、深入りはせず防御に専念する。
 その合間を付き、ミズヤが攻撃を仕掛けるが、そんな手にセンはひっかからない。
 センは容赦なく一撃を加えようとするが、ミズヤはそれをかろうじて防ぐ。
「!」
 その一撃はセンにとって決まるはずの一撃だった。
 向かってきたスピード、受け流した時の力、どれをとっても飛び抜けているわけではない。
 それなのに決まらなかったのだ。
 ミズヤの方も驚いていた。
 先程の一撃を躱せたのは、父との組み手を思い出させたからだ。
 それがなければ避ける事など出来なかった。
「ふん、面白い」
 センは笑みを浮かべた。
 そして今度は容赦なく拳を叩き込む。
「ゲホッ!!」
 今度ばかりは避け切れず、ミズヤはその場に沈み、ベルクも後に続く。
 呆気ない終わりだった。
 先程との違いにセンも一瞬戸惑う。
 ふと見回すとセンの周りには山積みに、その更に周りの者も地面に倒れ臥していた。
「そろそろ終わりかな?」
 十分に楽しんだ外野が終わり時を告げる。
「メシュナー中佐、お願いします」
 と、一人がバークに告げる。
 センに終わりを告げる役を誰もやりたがらないのだ、別にセンが嫌われてるわけではないのだが。
 バークはセンに近づき声をかける。
「そろそろ終わりにしよう、セン」
 さすがに疲れているだろう大尉に優しく告げ、いつものように大尉はその雰囲気を変える。
 あいにくと新人達はそれを目にする事はできなかったが。
「目を引く者はいたか?」
「何人かは・・・・・・」
 中佐の肩に頭を預け、センは先程戦った相手、また周りで戦っていた様子を思い浮べる。
「でも、最後の少年。
 なぜわたしの一撃が止められたのか分からない」
「そうだな」
 バークは自分に頭を預けるセンを優しく抱き締めた。
「もう子供じゃない・・・・・・んだな」
「バークさん?」
「いや、何でもない」
 そうして新人達の初日は終わりを迎えた。
 明日が休みの理由を深くその身に刻みながら。

「お前はどいつだと思う?」
「あの右肘に傷があった男だな」
「俺はさっき言ってた金髪の男かな」
 周囲を囲んでいた者達は、さっそく将来有望そうな者を評価しあう。
「しっかしセンに向かっていくとは、無謀とは言え哀れだな」
「だな、明後日には地の底か」
 意味深な言葉を交わしながら恐ろしい言葉を口にする。
 幸い新人達は深い眠りについており、それを耳にすることはなかったが。
 ただ、倒れていく新人を見ていた彼らにも同じ事はあったのだ。
 地面をベッドに眠りについている者達を見る目は温かい。
 その中にはこれからの厳しい訓練を思い、多少の哀れみも含んでいた。
 そして新人達は最初の休日の午前中を睡眠で潰し始めた。

人物が増えてきたので簡単に紹介を。
ミズヤ:主人公  ベルク:軍での初めての友達  ガル:ミズヤの部屋のリーダー
バックル:部屋の中で一番ガタイがいい  コミュ:部屋の中で一番物静か
ルージル:部屋の中で一番子供っぽい  セン:ミズヤ達の上官  バーク:ミズヤの父
シエル:ミズヤの同期の女性、ミズヤよりガタイが良い

誤字脱字、ストーリーの不自然さをチェックしながら読んでいると、なんて馬鹿馬鹿しい小説なのだろうと(笑)
若干男性が引く所があるかもしれませんが、最後まで読んでいただいたら納得できる形になっていますので、もう少しお付き合いくださいませ。
(2009.11.15)