もうすぐ文化際。
あまり演劇の役などしたくない私は面倒くさい衣装係になってしまった。
はっきり言って縫物なんて今時滅多にする人なんていないのに、なぜか手作りの衣装にこだわる先生。
さすがに出演者全員分は無理なので主演達の分を家庭科で習った知識を総動員してチクチクと縫う。
ひらひらとしたスカート。
ギャザーをイメージしていたけど出来るはずもない。
役の人たちはごちゃっとした教室を離れてどこかで練習している。
さすがにウエストは人で合わせたいと思い見渡すが、ほとんど役の人達について行ってしまいあまり人がいない。自分ではいてもいいけどやりにくい。
別に女子にこだわる必要もないが、ノリでスカートを合わせてくれる男子もいなかった。
さて困った。
仕方なくあまり話したことのないクラスメートの女の子に話し掛けようとしたら、横から声がかかる。
「誰か捜してるのか?」
私はその意外な人物に、空耳かと疑った。
三島俊司。
私とは話したこともなければ、関心もない相手。
暗いと言うわけではないが、無口で仲の良い友達は別のクラスらしく、教室では一人でいることが多い。
自分を見つめる三島君に先程の声が空耳でなかったと気付き、一応クラスメートなので返事を返す。
「え? いや、誰かウエスト合わせてくれないかな~と思って」
と、作りかけのスカートを見せる。
「・・・・・・」
そのスカートをじっと見る三島君。
このスカートをはいて! と言ったらこの無口な男はどうするだろう?
「良かったらちょっとはいてくれない?」
おそらく他を当たってくれと言う言葉が返ってくるかと思ったが返事がない。
硬直している?
「なんて嫌だよね。ごめ・・・・・・」
突然三島君は私の手を取り教室を飛び出した。
私は男の人に手を握られた事がなかった。
が、照れるような状況でないのは分かる。
「三島君、ごめん。変な頼み事して、ちょっと三島君?」
三島君は一心不乱に歩き続ける。
私はそれ程怒ることでもないのにと思いながら、顔が見えないので何とも言えない。
結局屋上までスカートを片手に引っ張られた。
「それ」
三島君はスカートを指差す。
「へ? あ、着てくれるんだ」
私は部屋で着るのが恥ずかしかったのかと納得する。
別にズボンの上からはくのだから教室でもいいのに・・・・・・と思いながら、三島君の親切心に水を差すこともないだろうとスカートを差し出す。
「後ろを向いてくれ」
「?」
私は言われるまま後ろを向いた。
そしてチャックを下ろす音に気付く。
ズボンを脱ぐ気!?
「三島君!! ズボンの上からでいいんだけど」
私は振り返るわけにもいかず慌てる。
「・・・・・・え?」
その声は意外な声だった。
ズボンを脱がなくていい、というのを残念がっているように聞こえたのだ。
一応私は言ってみる。
「で、でも脱いでくれるなら、その方がいいんだけど」
否定の言葉はなかった。
ズボンを脱ぎきる音が聞こえ、声がかかる。
「もう、いいぞ」
「あ、ありがと」
私の顔がひきつったのは言うまでもない。
取り敢えずウエストを調整する。
ゴムだから簡単なものだ。
「ありがとう、もういいよ」
すぐに終わった調整に、三島君は名残惜しそうにひらりとターンする。
私は確信した。
三島君はスカートをはきたかったのだ。
「三島君、スカートをはいて楽しい?」
怒られるかどうかなど考える前に口から出てしまった。
さすがにまずかったかと思うが、三島君は怒るどころか質問を返してくる。
「ひらりと舞うスカートは良くないか?」
私も女の端くれだから分かる。
ふわりと広がるスカートなどは回りたくなる気持ちを。
ただ残念な事に、私はズボン派だった。
「でもスカートは冬は寒いし捲れるし、ズボンの方がいいと思うけど? 制服以外に着たいとは思わないな」
どうやらそれが三島君にとっての禁句だったようだ。
「普段着にスカートをはかない? スカートは持ってるんだろ?」
「ジーパンばっかりで持ってない」
「持ってない!? 女なのにもったいない・・・・・・次の休み空いてるか?」
「え? 空いてるけど」
「携帯教えてくれ、スカート買いに行こう」
「はあぁ?」
本気? と言う疑問は休みの前日に解決した。
『明日、11時に駅前で待ってる』
結局お昼に千円ほどのランチを御馳走になり、スカートを買うはめになった。
三島君の見立てで。
さすがに二人で話す時間があり、とりあえず三島君に女装癖が無いことは理解した。
ただ、ひらりと舞うのが良いそうだ。
自分ではくのは、この前の屋上で懲りたらしく、私にスカートを勧めたとの事。
変な癖があるわけでもなく、家まできちんと送ってくれるあたり、私は高評価を付けた。
そして文化祭は無事終わった。
数日はいつもの関係に戻り、三島君と接点のない日が続いたのだが、ある日三島君が再び声をかけてきた。
「この前買ったスカートはいてるか?」
「え? はいてない。平日は制服だし、休みも家にいるならジーパンだし」
家にいる時には勿体ないと言う意味で言ったのだが、三島君は納得しなかった。
「せっかく買ったのに勿体ない。出かけるならはくんだな」
「まあ・・・・・・ね」
「本当だな」
「そりゃあ、かわいいスカートだったし、出かけるならはくよ!」
私はやけくそ気味に叫んだ。
「よし、じゃあまた休みが空いていたら俺と出かけるぞ」
あのスカートがふわりと舞う所が見たいのだろう、結局押し切られ出かけることになった。
そして、それが終わりではなかった。
一着ではと、別の日に三島君はスカートを買ってくれた。
さすがに遠慮したのだが。
そしてやはりそのスカートをはいた私と出かけたがった。
それが幾度も続く。
世間一般ではこの状況を付き合っていると言う。
-完-
FN掲載作品です。どうも私は普通の恋愛物を書けないみたいです。
三島君は主人公を誘う口実にスカートを使ったという意見がありましたが、普通にスカートをはけよ!という思いだけで、最初は全くそんなことは意図していません。
そのうちに若干意識して・・・・・・という展開のつもりで書いていました。文章力不足ですね。
これは別にテーマはなく、何となくな流れで・・・・・・みたいな感じと、変な同級生を書きたかったんです。
ズボンのチャックを下ろすシーン、自分で書いてて笑いました。
マジかよ!?って(笑)
(2009.7.20)