それはとても美しい炎だった。
美しく綺麗な炎が町を包み、全てを飲み込んでいる。
その炎が美しいのは両親を含む、故郷全ての人々がその糧となっているからだろうか。
頬に、チリチリと当たる炎も母の温かい手の様だ。
しかしその温かい手は死への道標である。それが分かっていても、少年は燃える町の中、自分の家を求め歩き出した。
一歩、二歩、決して幼くはない少年の歩みは進まない。
熱いのだ。
無意識の恐怖が足を進ませないのだ。
今自分が歩いているのは、歩き慣れたはずの自分の生まれた町なのに。怖くてたまらない。
多くの道は既に炎で塞がれ、もはや家に向かっているのかもわからない。
怖い
怖い
熱い!
少年は目の前しか見ていなかった。視界の片隅に何か黒いものが見えるのだ。人かもしれない。
それが怖かった。
昨日までは自分に話しかけ、笑いかけてくれた人かもしれない。
それが今誰もいないのだ。皆燃えている。
最初にこの光景を目にした時、少年は何が何でも両親を見つけようと思ったのだ。ひょっとしたら生きているかもしれない。自分の親だけは助かっているかもしれない。今助けに行ったら、きっと間に合う。
ドサッ
目の前に空から何かが振ってきた。
いや、違う。
窓から落ちて来たのだ。およそ人間らしくはない乾いた音を立てながら。
今まで目を背けていたものが突然目の前に振って湧いたのだ。
それはもう年齢どころか、もはや男か女かすら分からない。更に地面に落ちた衝撃で、体の所々が散らばっていた。
少年にはそれが人とは思えなかった。
知り合いかもしれないなんて思えなかった。
平穏に暮らしていた少年には、もう限界だった。
気持ち悪かった。怖かった。そして徐々に包まれていく炎に死を感じた。
もう両親の事も誰の事も考えられない。
今まで少年を慈しみ育ててくれた故郷を、少年は恐怖で後にした。
旧携帯版では「アルセンとの出会い」のタイトルでしたが、アルセンは最後にしか出ないので、タイトルをマインとツガートがメインっぽい感じにしました。
今回は「痛い・キツイ・重い」の三拍子が揃っているので、ご覧になる際はご注意ください。
(2011.1.19)