当てもなかった。
ただただ逃げ出したくて、少年はキャラバンを去ったのだから。
離れれば忘れられるかもしれない、苦しくないかもしれない。
しかしそれを薄れさせてくれたのは、やはり時間でしかなかった。
何とか剣を片手に生き抜く事は出来た。
キャラバンに居た頃、特に芸に秀でたわけでもなかったので、食事などの雑務も任されていたツガートは、自分の事は一通り何でも出来たのだ。
旅も苦ではない。キャラバンにいた頃から慣れていた。
ただ生きるために剣を振るうと、片手を失った剣の師匠の事が思い出された。
何年も経った今頃思い出すのだ、何と薄情者か。自分がキャラバンの中で生きる道を開いてくれたのに、振り返りもせず少年は師匠に背を向けた。
あの腕で用心棒が出来るのだろうか? それこそ自分が残っている方がましだったかもしれない。
考えたくない。
考えれば考えるほど少年は自分自身を追いつめていく。
出来る事は時間が過ぎるのを待つ事だった。
寝てしまえばその時は忘れられる。時間があの両親の死に様を忘れさせてくれるはず。
少年はそうやって大人になっていった。
(2010.12.1)