破滅への出会い 12

 親子ほど年が離れているわけではないので、ツガートとマインは決して実の親子に間違えられた事はない。
 マインにとっても、ツガートは父親という対象ではなかった。年の近い兄、他人なので近所に住む仲の良いお兄さんだろうか。
 だがマインにとって十数年を関わってきた人達よりも、ツガートと過ごした数カ月の方が濃密に感じられた。他の人に対して十数年かけて育んできた執着心を、ツガートに対しては僅か数ヶ月の間で濃縮したのだ。
 故郷を失った一件がマインの執着を更に強くさせていた。それは日に日に増していく。傍にいればいるほど強く。



 正直ツガートは驚いた。マインにせがまれて剣を教え始めたのだが、これが才能があった。
 マインもツガートと少しでも長くいるための手段とはいえ、興味もあったし面白い。ツガートも教えるのが面白く、時々金欠になって慌てたほどだ。
 筋が良かったのか才能があったのか、マインは一足飛びで腕を上げる。それも自分を目指してくれているのだから、ツガートは嬉しくないはずがない。
 そう、目指して・・・・・・





 そういえばオウンもそうだった。父さんみたいになりたいと、そう言ってくれた。
 マインはツガートを父とだぶらせる事はなかったが、ツガートは時々マインを息子と重ねていた。特に剣を教え出してからは。




 だがそれは少しずつずれてきた。

 息子のように見れていた時はよかった。だがオウンにしてやった事をすればするほど、違いがよく見えてくる。
 自分に向ける笑顔が違う。マインの笑顔はその髪と同じく太陽のようだ。オウンはそんな風に笑わなかった。もっと子供っぽい笑顔。



 そうオウンはあの時のまま変わっていない。母親のロツを守って死んだのだ。
 自分が教えた剣で、立ち向かったのだ。



「ツガート?」
「え?」
 その声に目を瞬かせるとマインがこちらを見上げている。目を上にやると、ここ最近見慣れた宿の天井。
「どうしたの? さっきからぼうっとして」
「ぼうっと・・・・・・してたか?」
「してたよ。話しかけても無視するし」
「ごめん」
 マインはまじまじとツガートを見つめる。何だかいつもと違う。
「何の話だっけ?」
「だから、この宿を出るのをいつにするって話」
「あ、あ。そっか。そうだったな」
 思い出した。今日は午後からマインに剣を教えて、ベッドで横になりながら話していた。いつの間にかうとうとしていたのか。
「もう少し、ここにいるか」
 金ならこの前補充したし、まだしばらくは逗留できる。
「そうだね、ここ料理美味しいし」
「あはは」
 それじゃあまずい料理の所はすぐに発たないといけないなと笑う。その様子はいつものツガートだったので、マインはこっそり安堵する。
「って、何!?」
 ツガートから少し視線を外したら、いつのまにかツガートがのしかかってきていた。
「一緒に寝よう」
「はぁ? 俺そこまで子供じゃない」
「じゃあ俺が子供でいいや」
「何言ってんだよツガート、うわ!」
 所詮少年の力では大人のツガートにはかなわない。布団ごと抱きしめられたマインは早々に抵抗を諦める。ツガートに甘やかされるのは嫌いじゃない。

 一瞬湧きあがった恐ろしい不安を紛らすように、ツガートはマインを強く抱きしめ眠りについた。

(2011.11.26)