破滅への出会い 11

「剣を教えてほしい?」
 ツガートは首を傾げた。二人で旅を始めて既に数カ月が経つが、そんなそぶりなどちっとも見せなかったのだ。
「どうして急に?」
「え、駄目?」
「別に駄目じゃあないが」
「だったらいいでしょ。ね、ツガート」
 よく考えたら、マインは特に特技を持っているわけではない。ツガート自身、父親の才能も母親の才能も受け継ぐ事が出来なかったから剣を教えてもらったのだ。今後の事を考えると、何か出来る方が良い。ただツガートも決していつも安全な仕事を請け負っているわけではない、今その道を選ばせるのは少年にとって良い事なのだろうかと悩む。
「ツガート!」
 マインがすがる様な目でツガートを見つめる。ツガートはその目をまじまじと見返した。
「俺が」
「え?」
「俺が教えられるのは、剣くらいしか・・・・・・ないな」
 マインの顔がパッと輝く。この瞬間がツガートは好きだった。
「言っておくけど教え方が上手いとは決して言えないからな。本当にやりたいんなら、ちゃんとした人の方が・・・・・・」
「ううん、ツガートがいいんだ」
 何故ならマインにとって、剣はツガートと少しでも一緒にいられるための手段だから。他の誰かに教えてもらうなら意味がないのだ。

 自分が少しでも剣を使えるようになったら一緒にツガートと仕事に行けるかもしれない。少しでも長く一緒にいられるかもしれない。そう思うだけでマインは嬉しくて、がっしりとツガートに抱きついた。

 二人は特に目的のある旅ではなかったので、金さえ都合がつけば時間はいくらでもあった。他に弟子がいるわけでもなく教える方が一人ならば教わる方も一人、マインはツガートを嫌と言うほど独占できた。
 ツガートは自分が貰ったように、マインに練習用の剣を与えた。そして自分が教わったようにマインに剣を教える。
 そういえば自分の息子にも同じように教えていた。ツガートはまだ妻と息子を失って一年も経っていない。
 マインと初めて出会った時、まだまだツガートはそれを引き摺っていた、だから一瞬少年を助けようかどうしようか悩んだのだ。だが今ははっきりと確信できる。

 助けて良かった。

 今この少年がいる事で、自分はどれほど救われているか。あの時少年を助けたことで、ツガートは間接的に自分も助けられたのだと確信している。
 それほどツガートはマインを大切に思っていた。本当に大切だった。妻と子供へと注がれるその全ての愛情をツガートはマインへと注いだ。

(2011.10.19)