「明日は仕事が見つかった。しばらくこの宿は取ってるから」
「うん」
頷きはしたが、マインはこの瞬間が嫌いだった。金を稼ぐために仕方がない事だし、養ってもらってる自覚もある。
ツガートが町に着いて最初にする事は宿探しと共に、旅の友を覗く事だ。手頃な仕事があれば引き受ける。そして2、3日かかる仕事も引き受けた。
医者の所で世話になっていた時は日を跨ぐ仕事は引き受けなかったのだが、いくらなんでもそれを望むのは我儘だろう。
「何日?」
「明後日の夕方には帰ってくる」
「うん」
暗い顔をしまいと思っても、それをするにはまだマインは経験が足りない。宿の一室でそれぞれのベッドに寝転がっていたのだが、ツガートはその表情を見逃さなかった。
「何だ? 寂しいのか? そんなに子供だっけ?」
「あ~、子供だよ。ツガートより十以上は若いからね!」
「マイン」
プツンと口調を変えてツガートが近づいて来る。別に怒っている口調ではないので何だろうとマインはツガートを見上げた。
「あと十年後に同じ事を言ったら」
「え?」
「こうしてやる!」
「わぁぁ!!」
マインはうつ伏せのまま腕を決められベッドに押し付けられた。意外と子供っぽいツガートにマインは最初戸惑ったが、慣れたらこれはこれで楽しい。マイン自身もまだまだはしゃぎたい年頃なのだ、遠慮なく抵抗し始めた。
昨日はたっぷりとツガートに構ってもらったので、一日目は町を探検することでマインは気分を紛らわした。
でも夜になって静かな部屋で暗い空間を見つめていると急に寂しくなってくる。
そこまで子供じゃない!!
そう思ってもどうしようもないのだ。
ツガートが帰ってこないはずがない。自分の所へ帰ってくる。もう自分は一人じゃない。
何度も何度もそう自分を納得させた。
だけど本当に一人ぼっちになって、たった一人で歩き続けたあの恐怖をマインは忘れてはいない。
ツガートに拾われ、医者に世話になって多少は癒された。だけど忘れてはいないのだ。
ツガートに会いたい、ツガートのそばを離れたくない、どこにもいかないでほしい。
そしてまたそんな子供みたいな事を考えてしまう自分が情けなくて、マインはふっきるように目を瞑った。
明日の夕方には帰って来る、それだけを心の支えにして。
ツガートはそんなマインの心情に気がつかなかった。自分といる時のマインはまるっきり明るいのだ。
それはマイン本来の性格であったし、何も無理している様子も見られない。数日帰ってこない仕事から戻って来るとやけにスキンシップをしてくるとは思ったが、それはただたんに普通に寂しかったのかと思っていた。
マイン自身もそれを表に出すのは恥ずかしいと思っていたし、他人同士なのだから仕方ないのかもしれない。
だから何か別の手段はないかと考えた。それはいい案に思えたし、男として興味ある事だった。
ツガートが帰ってきたらさっそく頼んでみよう。
その事が二人に破滅をもたらすとも知らず、マインは静かに眠りに落ちた。
(2011.8.27)