破滅への出会い 5

 とにかく最初に男が思ったのは困った、だった。
 一体いつから食べ物を口にしていないか分からない少年に、何を食べさせていいものか。とにかく医者に診せなければと、再び少年を背負い小屋を後にする。

 オーバーペースなのは分かっていたが、自然と足が急く。少年は寝ているのか起きているのか分からないが、先程から何も話さない。昨夜から聞いた言葉と言えば自分を父親と間違えて呼びかけた時にいくつか聞いたくらいか。
 昨日も感じたが、決して幼い少年ではないのに驚くように軽い。急がなければ死んでしまうような気がする、いつしかその足は走り始めていた。



 まさに駆け込んだ、という表現が正しかったに違いない。やっと町に着いた青年は一目散に医者を目指し、町の中を駆け抜けた。
「この子を診てください!!」
 が第一声だった。後で聞けばあまりの慌てぶりに、青年の実の子供かと思ったと医者に言われた。しかし駆け込んだ時は、少年はこん睡状態に陥っていたので医者の意識はすぐにその少年に向いたのだが。


 「何があった? どうしてこうなった?」
 という言葉に青年は答えられない。昨日見つけた時にはすでにこの状態だったのだ。これで医者は青年が父親ではないと気付くのだが。


 少年は衰弱している上に、あちこち焼け焦げている。火傷自体は大したことはないのだが、やはり何日も食べていないので体が弱り切っていた。どれだけ歩いていたのか分からないが、足元には切り傷も山とある。感染症にかかってないなかったのは幸いか。
「あー、あんたはこの子の親父さんじゃないんだろ?」
「はい?」
「どういう経緯でこの事知り合ったかは知らんが、この様子じゃあしばらく入院してもらう事になる。あんた、この子の保護者になるつもりはあるのかい?」
「保護・・・・・・? あぁ、治療費の事か」
「それもあるが、見た所十代半ばだろ? あんたが保護者じゃあないっていうなら、馴染みの保護施設にでも連絡を取ろうかと思ってな」
「保護施設?」
「そこに預けるんなら、町から治療費は貰える。別に治療費が惜しくて言ってるんじゃないぜ。この様子じゃあ、回復してもしばらく養生が必要だと思ってな」
「保護者です」
 青年は即答した。
「ほう」
「治療費も俺が払う。俺が・・・・・・」
「あぁ~、ちょっと待て。待ってくれ。あんたが責任感があるのは分かった。が、治療費の事はいいだろう。だがな、その後は別だ。俺がって言う簡単な問題じゃないぜ」
「分かっている。それくらい」
 医者はため息をついた。これはどうやら自分の切り出し方がまずかったようだ。
「じゃあ、こうしよう。とりあえずあんたが治療費を払ってくれる。そしてこの子が少なくとも自分で冷静に判断できるまで回復する、そこまではあんたが保護者だ。その後はそれから考えるってのでどうだ?」
 仕方なく青年は不承不承頷いた。
 何故なら昨日の夜に、自分はこの子を守ろうと決めたのだから。
 治療を受け、昨晩よりは幾分安らかな寝息を立てる少年。それを青年は息子を見るような優しい瞳で見つめた。

(2011.4.5)