第一章 第一話 8

「ア・・・・・・ルセン」
 さすがに驚いて一瞬怒りを忘れるが、五十年近く生きた中で男にキスされるのは当然初めてであり、経験したくもなかった事を経験してしまったマインはすぐに怒りがぶり返してきた。

 マインが気づいていないだけで、昔一緒に旅をしていた頃には未遂があったのだが。

「お、おま! っざけんな!」
 本当に五十近くの男か? と言いたくなるような怒り任せの怒鳴り方をするが、昔の姿に戻った事で若干マインより体格の良くなった男は余裕でマインを見返す。
「誰がふざけてるか、真剣に愛しているぞ」
 至って本人は真面目に言っているのだが、あまりに堂々と言うのでむしろ本当なのか怪しい。
 マインは怒りと唐突な親友の告白の恥ずかしさに、顔の赤さの原因がどちらなのか分からなくなる。

 落ち着け落ち着け落ち着け、いい年した親父が照れてどうする。

 混乱した頭を整理したかったが、唇に残った感触がそうさせてくれない。
 口直しさせてくれるような妻も既に他界していた。

「これで俺の心配をする事もないだろう。で、助けに行くんだろ?」
 返事をしないわけにはいかない話題を振られるが、まだ混乱中のマインはまともに返事も出来ない。

「お前な・・・・・・
 そこまでショックを受けられると、さすがに傷つくんだが」
 マインが普通に女が好きなのは知っていたし、アルセンも別に同性同士で愛したいわけでもない。
 ただ間違いなくマインとアルセンは親しい、だからキスぐらいはいいだろうと思っていたのだ。
 その辺はアルセンの一族と人間の感覚の差か。
 しかしアルセンに及ばなくとも、マインも人間としては既に寿命の半分を生きている。
 ここは年の功を生かして、何とか今の出来事を振り返った。

「そ・・・・・・そうだな。助けに、行かないとな」
 口元は引き攣っていたが。
 息子に見られた事に気づいていないのが幸いである。

こういう行動が足を引っ張るのかアルセンは人気がありません。書き直す前の携帯版では普通にマインとメーネの夫婦の方が人気がありました。
(2010.4.27)