先程まではぶらりと足が向くままにエルンへと来ていた。
しかし今は脇目も振らずセーダルの町を目指す。
元々セーダルはエルンに多い遊牧の民で移動可能なテント暮らしだったが、十五年前の内乱の際他の部族と共に定住を決め町を形成している。
急ぐわけでもなかったので馬を用意していなかった事を悔やんだが、幸いセーダルの町の近くまで来ていたらしく、数日でたどり着く事が出来た。
まだ早朝だったが、数少ない通りすがりの人全てに片っ端から話を聞き、やっとマインを見かけたという人物にたどり着く。
その場所がどういう場所かも考えず、アルセンは他人の家に遠慮なく入り込み、マインの姿を求めて片っ端から部屋の戸を開けて回った。
四枚目の戸を開けた時、アルセンは目的の部屋へと辿り着く。
いきなり開けられた戸に、中にいた者達が一斉に警戒心を走らせる。
しかし暗い部屋の中、アルセンはその中に一人中年にしては派手な若々しさと、薄暗い中でもそれと分かる燃えるような赤い髪を持つ男を見つけた。
間違えるはずがない。
どれほど長い間会わなくても忘れるはずがない。
懐かしい、十年以上の間共に旅をし、そしてメーネに負けを認め二十年会わなかった相手、マイン。
溢れるほどの喜びが体を満たすが、再会に涙するほど女々しい性格を持ち合わせていなかったので、アルセンはどうしても聞かなければならない事をマインに問い詰める。
「マイン、メーネが死んだというのは本当ですか?」
何者だ! と誰何しようとした一同はマインの知り合いかと本人を見る。
全ての者の視線を一身に受けながらマインはこう言った。
「・・・・・・お前、誰だ?」
マインの妻メーネの死について問いただすなら、込み入った関係者かと思ったマイン以外の一同が脱力し、張りつめていた空気が流れ出す。
「ふざけているのですか?」
入口に立つ男の表情は逆光で分かりづらいが、声に怒気が含まれるのが分かる。
「本気で、言っているんですか?」
その勢いに、本気で相手が誰か分からないマインは困惑する。
「あー、マイン」
マインが振り返ると、この家の持ち主でもある声の主はここから出て行けと手を振っている。
確かに迷惑だろう、マインはとりあえず突然現れた男を連れ家を出た。
(2010.4.1)