いずれ世界が戦火で覆われるという不用意に発した予言者の言葉により、各地で戦火が燻り始めて十年。
大陸の東に位置するハイエルク地方では、三年前の小規模な衝突以来、他国との争いは姿を潜め、束の間の平穏が訪れていた。
ハイエルク地方の中で最大規模の国はエルンであるが、元々国土は広いがその中には多種多様の民族が点在しており、国と言うのは首都および民族の間を縫うように作られた町が中心であった。
しかし十五年ほど前に内乱があり、その結果多くの民族は町を形成しエルンの中へと正式に組み込まれる事となる。
その際国の内政も改められる事になり、国としての規模は大きいが不安定なイメージが拭えなかった。
ただ、この国の縦の繋がりはまだ未完成と言ってもいいが、民族同士の横の繋がりは古く、戦火が燻る中エルンが国を保てた所以となっている。
何故か足が東へと向いた。
エルン、セーダルの民であるメーネが生まれた国。
あの時もう二度と会うまいと決めた、だからこそ二十年の間二人を忘れ他の人間と暮らしてきた。
今更会った所で自分はただの厄介者でしかない。マインと二人、旅をしていた頃とは違うのだ。
求め合って求め合って二人は結ばれた、それを知っていて、なのに何故急にこんな所ヘ来てしまったのだろう。
いや、本当は忘れてなどいなかった。
あの時をあの時間を忘れられるものか。
だが忘れなければならなかった、それほど犠牲的精神を持ち合わせてはいなかったが、少年の頃から見てきたせいだろうか、ある意味マインに対して親の様な気持も持っていた。
あの追い詰められた少年の幸せを願った、救ってやりたいと思った。
自分ならば全てを受け止められると思ったからこそ、あの時あの男からマインを奪ったのだ。
しかし手に入れた少年は青年となり、妻となるメーネと共に去って行く。
マインがメーネを選んだ時点で自分の存在意義はなくなったのだ。
それなのここまで来てしまった、愛した女と別れてまでも。
どうしているだろうか。
マインもメーネも四十代のはずだ、子供に囲まれ今でも豪快に笑っているだろうか?
二人とも派手な印象を与える容姿だった、きっと今もそうだろう。
このまま来た道を引き返すべきだ。
鮮やかに想像できる幸せなマイン達を壊すべきではない。
だから、ふと通りがかったセーダルの民の特徴であるオレンジとグリーンの民族をまとった人物に二人の様子を聞き、それで終わりにしようと思ったのだ。
「マインとメーネの知り合い?」
二人はきっと幸せに暮らしているだろう、ただそれを確認したいだけだと自分に言い聞かせる。
しかし声をかけた男は怪訝そうに顔をしかめる、自分とマイン達の関係が掴めないのだろう。
そこでアルセンは自分の容姿を最大限に利用し、笑みを浮かべた。
セーダルの青年が軽く頬を染めるのを内心ほくそ笑みながら畳み掛ける。
「ええ、昔お世話になって」
と結局当たり障りのない答えしかしていないのだが、青年は男相手に赤面したのを誤魔化すためか二人の事を語ってくれた。
不意に表情を改めた青年に今度はアルセンが訝しむ。
「残念だが・・・・・・」
その言葉にアルセンの体を怒りが走り抜けた。
始まりだけは壮大です。
風呂敷を中途半端に広げ、広げっぱなしで携帯サイトでは完結したので、このリニューアル版はもう少しちゃんと書いていきたいと思います。
ここで書いているマインの過去については外伝の方をご覧ください。
(2010.3.16)