第一章 第三話 5

 翌朝ジエンが起き出すと、父親とその友人は夕食時のまま机の上で突っ伏して寝入っていた。
 酒が数ビン空いている。これくらいで父が酔っぱらうわけはないのだが、きっと話が弾んだのだろうとそっと片付けを始める。
 そこへ寝なければと焦るあまり寝過ごしたアルカが、少し遅れて姿を現した。
 先にジエンが起きている事に焦るが、テーブルでまだ熟睡している父親たちを見てほっと胸をなで下ろす。

「一晩飲んでたのか」
「みたいだね。たまにはいいんじゃない? 最近ここまで飲む事なかったしさ。
 でも本当にお父さん、アルセンさんと仲いいんだね~」
「・・・・・・そうだな」
 確かに肩を並べて寝ている様は、ただ仲がいいように見える。本当に普通の男友達として仲がいいなら何も問題はないのだ。
 昨日交わした会話では、人物的にはアルセンの印象は悪くない。最初に見たシーンがあまりに印象を決定付けすぎたのだ。
 だが、こうして無防備に寝ている父を見ると、本当にただの友人ではないかとも思う。きっとあれはただの悪ふざけだったのだ。と思いたい。
 母が死んでから、誰も父にこのような顔をさせる事が出来なかった。そのいつもより若く見える父親の寝顔に、子供達は自然と顔がほころぶ。
「何かさ、お父さんの表情違わなかった?」
「ん? そうか? いや、そうか、な。」
「何よ、その歯切れの悪さ。アルセンさんと話してる時のお父さん、なんか別人な感じだったし」
「アルセンでいい」
「!」
 寝入っていると思っていたアルセンが体を起こした。
「お、おはようございます。冷たいお水、飲みますか?」
 父親の友人関係をざっくばらんに話していたので、多少の気恥ずかしさを隠しつつ、気を利かせてジエンが水を出してくる。
「すまない、助かる」
 実際アルセンは頭痛がした。昨日の事を多少やりすぎたかなと思っていたので、マインの勧めるまま飲んでしまったのだ。
「敬語もいい、普通に話してくれ。その方が話しやすいだろう?」
 ジエンはともかく、アルカの方は見た目は十も離れていない。確かにあまりに堅苦しい敬語を使うのは少し話しづらいのだが、父の友人であり、年齢も誤魔化されているので、どうにも話し方が堅くなってしまうのだ。
 しかしここは娘の方が順応性を見せた。
「う~ん、よし! じゃあ普通に話させてもらいますね!」
「ああ。アルカ、君も普段の話し方でかまわない」
「え、えぇ。・・・・・・はい」
 どちらにしろ話しづらいなとアルカは密かに思ったのだが。

 やっと起き出した多少二日酔い気味のマインを長の元へ送り出し、ジエンはアルセンを連れ町の中を案内しに行く事にした。
 昨日マインが多少はアルセンに町を案内したが、店などもほとんど閉まりかけた状態だったため、改めてという事だが、どちらかと言うとジエンの方が乗り気だった。

 兄としては気が気でない。

 いや、ジエンの身に危害が加えられないだろうと思えるあたりは良かったのだろうか? しかし代わりに父親に何かあってもそれはそれで複雑なのだが。
 と、悩んでもいられない。アルカも仕事に向かうため、一人相撲の悩み事を抱えながら家を後にした。

(2011.6.13)