第一章 第二話 1

 帰る道すがら廃屋での様子を聞こうとしたのだが、ミア達は部屋の前でグリスが庇い続けたため、そこから出る事がなく部屋の外の様子は分からないという。グリスに至っては声をかけられる状態ではなかった。
 それでもグリスは男達を殺したのはミア達を攫った仲間の一人であり、主導権を握っていたらしいという事を伝える。だがそれ以外は口をつぐみ、いつもならばロウドの後ろに乗るだろうに、今はロウドではなくアルセンの後ろに乗っていた。

 あのグリスをここまで追い込んだ奴らに激しい怒りが湧くが、それをぶつける相手は一人を除きもうこの世にはいない。
 皆グリスの強さは知っていた。
 その男がここまで打ちひしがれるとは、ミア達を守るためにどれほどの暴行を受けたのか、男達はこれ以上グリスに問いかける事は出来なかった。
 その様子にミアは声を殺し泣きじゃくる。当り前だろう、自らが招いた結果なのだ。
 しかし自分の泣き声は、自分達を守ってくれたグリスを傷つけてしまうに違いないと必死で声を押し込める。
 だが誰も口を開かない中、その嗚咽は一同の中に響いてしまう。
 彼女の謝罪は一度だけだった。それ以上はカーダルが止めた。
 謝り続けても、冷たいようだが何の解決にもならないのだ。
 それをきちんと納得する事が出来るのに、行動はまだ子供の域を抜けきらない。
 行動と思考がアンバランスな年でもある、起こってしまった事はもはや消せないし、これはきっと彼女の成長への一歩となるだろうと男達は思ってもいた。
 しかしそれと処罰は別である。


 長である前に父親であるハンデルに厳しく叱責されたミアは、自ら部屋での謹慎を申し出た。
 ミアの件はこれでいい。
 カラもミアと同じく自ら謹慎を申し出たが、カラの方は自ら国境へと赴いたわけでもなく、国境へ向かったミアを心配して後を追っただけだ。
 そしてそれをグリスとホンへと知らせてもいた。
 最善だったのはそこで自分は待つ、と言う選択だったが、友達であるミアを心配して追っていったのだ、その結果はともかくその事自体は長を含め誰も彼女に罪を問わなかった。

 他にあえて問うべきならばグリスだろう。
 それはミアを止め切れなかった事だが、グリスがいなければミア達に危害が加えられていただろう事も事実である。
 誰もこれ以上の罪を問う者はいなかった。
 そのグリスはハンデルの家の空き部屋で休んでいる、ロウドが付き添いたがったが、報告と今後の指針の協議があるためアルセンが付き添っていた。

 昔からの慣習を継承しつつも、さすがに町には議会なるものがある。
 朝から話し合っているこのメンバーとグリスが議員という事になるが、本人達にあまりその自覚はない。
 元々ここにいる者達は選挙で選ばれたわけでもなく、周りから頼られていた者達がなんとなくという感じであり、議員と言う意味では自覚がないのも仕方ない。
 一番若いグリスとロウドはカーダル達の推薦という形である。
 ただそれは議員としての自覚がないだけで、ハンデルを補佐するという意識に欠けているわけではない。
 方針はマイン達皆で話し合われるが、細かい事はシャージが行っている。
 話を聞いたシャージはすぐさま事の経緯をトーメルクへと伝えるのが最善とし、まずは王都に連絡を取る準備に取り掛かり始めた。

 長の家へ戻ってから再びグリスが話したところによると、誘拐犯達の死はただの仲間割れではない様に思えた、しかし理由が分からないとの事である。
 何故わざわざエルンとの諍いを起こすような事をするのか。
 何か裏を感じ、一刻も早く手を打ちたかったが、そこまでの権限はシャージにはなかく、それを歯がゆく思うが、とにかく今出来る事は決断した。
 その手際の良さにはハンデル達を含め誰も敵わない。

2010.8.1、最後の数行を追加。
(2010.7.27)