十年。
男にとっては決して長くはない時間だった。
それなのにあの濃密さはなんだろう。
何故かそれがこのままずっと続くと思っていた、あいつが死ぬまでずっと。
俺はそばにいるのだと。
あいつは俺のそばにいるのだと。
だが、あいつは選んだのだ。
「あいつを、置いていくなよ」
決して低くはない女を男は見降ろす。
「分かってるわよ、あいつより先に死んだりしない。わたし強いもの」
鍛え上げている体を伸ばし、女は断言する。
知っている、お前が強い事くらいは。
だから大丈夫だろう。
このメーネといれば、あいつは幸せになるはずだ。
だが・・・・・・
「だが、もし・・・・・・」
「もし、何? わたしは大丈夫よ、強いし健康だし。あんたほどじゃないけどね。
いっそ賭けをしてもいいわ」
自信に満ち溢れたメーネは胸を張る。自分が負けるはずのない賭けを申し出ているのだ。
「もし! わたしが先に死んだらあいつはあんたに譲るわよ。化けて出たりしないわ。
でも、そんな日は絶対に来ない。わたしはあいつが好きだし、ずっとそばにいるために精一杯の努力をするから」
それは本心だろうし、全く負けを想像していないその言い方はいっそ清々しいくらいだ。
そのはつらつとした魅力に男は目を細め、思わず抱きしめてしまいそうになるのを堪える。
なぜならメーネはあいつの女であったし、もう一人の体でもない。
あと何ヶ月かすれば俺のいない所であいつの子供が生まれ、メーネと子供に囲まれ幸せになっていくだろう。
その幸せは何よりあいつが望んだものだ、何より自分がそれを一番よく知っている。
あいつは家族に飢えていた、それを知っていて、それなのに自分は負けてしまったのだ。
ただの友人として、あのまま二人で世界を回っていればいいと思っていた。
あいつは自分のものだと思っていたから、そう思えていたのだ。
呑気に構えていた、だから負けたのだ。
「じゃあな」
「待ってアルセン。
ねえ、子供が産まれたら見に来なさいよ!
それともわたしとあいつの子なんか見たくない?」
未練を断ち切り、向けた背にメーネの声がかかる。
恋敵にあたる自分に残酷な言葉、ある意味メーネらしいが。
そんな所にはたまらず惹かれる。あいつも狂おしいほど愛しているが、メーネを愛している自分がいるのも分かる。
上手くいかない出会いの順番に恨みを込め、無言で背中越しに手を振った。
もう会うつもりはなかった、メーネにもあいつにも。
会えばあいつを壊してしまうかもしれない、やっと掴んだ幸せを踏みにじってしまうだろう、だから会わない方がいい。
マイン。
お前のそばにいられる事が幸福だった。だからただの友人としてお前のそばにいる事が出来た。
きっと今からではその関係でいられなくなる。
お前が俺に求めていたのは、誰よりもそばにいてくれる友人。
痛いほどにそれが分かる自分、他人の感情の機微に聡いという自らの一族に恨めしい感情を抱くが。
それでも・・・・・・
マイン、愛している。
最初に携帯サイト、その次にフォレストノベル、と書きなおしていって、再び書きなおしております。
初のBLに分類されるだろう作品です。まあboy、少年の話じゃなく中年の男の話なんですけどね(笑)
ちょっと沈んでいた時に、今までとは違う作品を考えよう!と思って考え付いたので、他とは全く違うジャンルです。
書き方も今まで以上にくどい書き方をしています。
今までで一番長く、一番内容を考え、一番登場人物に愛を注ぎ、一番好きな作品です。もしよろしければお付き合いくださいませ。
普通の恋愛の話も入るので、チャレンジャーな男性も求む!
(2010.2.18)