永遠のアルセン 6編

『食卓の風景 その1』

ジエン「・・・・・・お父さんが作るの?」
マイン「大丈夫だって、昔は作ってたんだ」
 そう言って妻を失った夫は意気込んだ。
アルカ「昔・・・・・・」
 二十年前というのは、子供たちにとっては大昔と言ってもいいだろう。
 しかしその手つきは確かに素人っぽさはない。
 ・・・・・・ないのだが、出来上がったものは何とも言えないものだった。
 きっと外でピクニック気分で食べたらおいしいのだろう。

 そういう味だった。
 父親は野外食しか作った事がなかったのだ。



『食卓の風景 その2』

ジエン「え、お兄ちゃんが作るの?」
アルカ「父さんよりはましだろう」
 そう言って台所の前に立つ。
アルカ「・・・・・・」
ジエン「・・・・・・」
アルカ「・・・・・・・・・・・・」
ジエン「・・・・・・・・・・・・」

 手つきは悪くなかった。
 基本に添ってきっちりと作っている。
 だが、妹にはどうにも兄と台所の組み合わせが耐えられなかったのだ。

 ようするに、似合わない。

ジエン「食事は、明日から私が作るから」
 娘は夕食時にそう宣言した。



『誰だ?』

「おい、あの女は誰だ?」
 揺れる海の上、男達は囁き合った。
 昨日まではいなかった美女が颯爽と甲板を歩いているのだ。
 それが陸の上ならそれほど疑問に思いはしないが、ここは船の上なのだ。
 一体どこからやってきたのか?
 しかしその疑問さえなければ、海の上であり男ばかりしかいない為、禁欲を科せられる男達にはむしゃぶりつきたくなるような女なのだ。
 決して華奢ではない、そして妖艶な海の女。
 その女がこちらを振り向いた。
「悪いけど、あたしには手を出しちゃあ駄目よ」
 先制された。
 しかしまたその笑みも男達の欲望を動かす。
「おい、アルセン。何からかってるんだ」
 そこに現れたのは船長だった。
 アルセンと呼ばれた女性は振り向きざま、一目散に船長に駆け寄り、首にしがみ付く。
 しかし周りの男達はその光景よりも、船長の叫んだ名前に反応した。
「ア・・・・・・ルセン?」
 そう、その名前は良く知っている。
 昨日まで共に汗を流し合った男なのだ。
 日に焼けた、ガタイの大きな男。
 それが昨日までのアルセンだったはずだ。

 しまったな、と船長は反省する。
 アルセンを女にするには早すぎたのだ。

 そうして、陸に着くまで男達は忍耐をすり減らす事になる。

以前の分の携帯サイトの拍手を載せていないので、「誰だ?」が唐突です。その前の話がありますので、そのうち「永遠のアルセン」の短編集にでも入れようかと思います。
何故か男バージョンより人気のある女アルセンです。
(2010.8.30)



『マインの髪』

「アルセーーン!」
 ほんの数週間前、男より無理やり奪った少年は、こちらを振り向き大きく手を振る。
「マイン、そんなに急いでも町は逃げないぞ」
「子供にするような説教はいいって、俺そこまで子供じゃないし」
「なら年長者を労わってくれ」
「アルセン、そんな歳だっけ?」
 マインは自分の年齢を知らない、見た目から判断してその上でからかっているのだ。
 別にマインもそれほど早く次の町へ行きたいわけではない、ただはしゃぎたいだけなのだ。





「・・・・・・」
 ふとマインの燃える炎のような髪が目に飛び込んでくる。ああそうか、小高い丘に出たので、マインが朝日を後ろから浴びているのだ。
 マインには朝がよく似合う。まさに太陽のような赤い髪がまた子供にしては豪快な笑顔によく映える。
 少し急ぎ足でマインに追い付いたアルセンは、炎の様な髪をぐしゃりと掻きまわしマインの抗議の目をさらりと流した。



『アルセンの髪』

「ん・・・・・・」
 目が覚めてしまった。いつものように体が痛いわけじゃない。体を預けている場所は柔らかくて温かい。
 そう、地面じゃなく抱いてもらっているのだ。
 ツガートと別れたのはほんの数日前。別れる直前の数カ月はずっと地面や床に寝ていたけど、出会った頃はこうして抱いてもらって寝る事も多かった。
 特に自分を拾ってくれた時は、四六時中自分を気遣ってくれていた。このアルセンの腕はその頃を思い出す。
 ふいに込み上げてきた涙に、マインは慌ててアルセンの腕の中に顔を埋めた。
「・・・・・・」
 何とか涙をのみ込んで、マインはほっと息を吐く。最初の頃にも泣きまくって、アルセンにはさんざん恥ずかしい所は見られているのだが、そう何度も何度も見られるのは男の子としてはちょっと恥ずかしい。
 起きてないよな? とアルセンを見上げると、静かな寝息が聞こえてくる。



 野宿をしていた二人に、夜風がふっと通り過ぎた。


 アルセンの髪が風に舞う。
 マインはそれをぼうっと見つめる。その髪から夜空に浮かぶ月が見えたのだ。
「そっか、アルセンの髪って月色なんだ」
 とってもきれいだと思う。


 やがてマインがうつらうつらと船を漕ぎ始める。アルセンはそっとマインを抱きなおした。



『小ネタ』

マイン「今回の拍手の差し替えの理由知ってるか?」
アルセン「ん?」
マイン「最近結構コンスタンスに拍手を貰っているからな、良心が咎めたらしいぜ」
アルセン「・・・・・・小心者だな。管理人ならもっとどーんと構えてみろ。俺達の話を書くくらいならな」
マイン「っとによう、普通のアベックの話すら恥ずかしくて書けない癖に、よく男同士の話を書く気になったな。ってどうしたアルセン?」
アルセン「・・・・・・お、お前今アベックとか言わなかったか?」
マイン「それがどうした?」
アルセン「い、いや。(俺の方が何倍も年上なのに、アベックという言葉が古いと思うのはなんでだろう)」


アルカ「世代を感じるな」
ジエン「でも管理人も別にアベックとか言ってた世代じゃないよね」
アルカ「世代じゃなくても、こんなのをネタにするあたり十分古い」
ジエン「本当に」


天の声『ほっとけ』

 

「マインの髪」と「アルセンの髪」はそのまま私のイメージです。ちなみにマインの髪は朝日ですが、メーネの髪のイメージは夕陽だったりします。
 それに比べて「小ネタ」は本当に小ネタです。確かやじきた学園道中記の漫画からアベックはパクッた気がしますm(__)m
(2011.12.4)