今にも倒れそうな足取りで歩くツガートとマイン。戻ってきた男は二人の元へ駆け寄り、少年にあれ以上の暴力の跡が見られないことに安堵する。
さて、どう口火を切ろうかと男が悩んでいると、先にツガートの方が口を開いた。
「助けて、ほしい」
「?」
確か一度別れる前にも、口にした言葉だ。
「俺が、壊してしまう前に。この子を救ってくれ」
「ツガート!」
渇いた喉で少年が叫ぶ。かわいそうなくらい慌てふためき、少年はツガートに詰め寄るが、ツガートはマインを引きはがし男に懇願した。
「助けてやりたいんだ、かわいそうな子だ。
でも俺といたら駄目だ。愛しているけど駄目なんだ」
愛している、それはマインにとって初めて聞いた言葉だった。もう今は嫌われていると思ってたし、それを望んではいけないと思っていた。
「傷つけてしまう、殺してしまう。
だから駄目なんだ。
だから、どこか俺以外の所へ」
その言葉にマインは震えた。
「い・・・・・・やだ。
いやだ、離れたくない。
俺だってツガートが好きなんだ。
一緒にいたい、一人は嫌なんだ!」
必死に喉の奥から声を絞り出す。喉なんか潰れてもよかった。ツガートのそばを離れたくない。
引き返した男は、無言で二人を見つめていた。
いや、最初にツガートの方に目をやってからはマインの方しか見ていない。
自分を殺そうとしていた相手に、必死ですがる少年。
ほしいと思った。
このツガートという男や、マインという少年を助けるためなどという思いは男の中にはなかった、どうでもよかった。
ただこの少年がほしい。
男は一言少年に聞いた。
「俺と、来るか?」
マインは首を振る。
「マイン、行くんだ。
今なら俺は笑ってお前と別れられる。
お前を助けた、あの時の俺でいられる。
今の、この俺と別れさせてくれ」
それでもマインは頷かない。
なぜなら、今はっきりとツガートの愛を感じたのだ。
やっと手に入ったものを失いたくない。ツガートもマインも、互いを求めていたのに。
これほどまでに自分に執着させてしまったのは、間違いなく自分のせいだとツガートは自覚する。
マインと二人で旅を始めてから、マインが望むこともあってほとんど二人でいた。外を求めなかった。
今、マインがかわいくて仕方がない。
その思いは、ずっとあったのだ。ただ、自分が未熟だったから、関係が歪んでしまった。
強烈にマインを手放したくないという気持ちがわき上がるが、今の正気を持った自分ではちゃんとそれを否定できる。
これほど優しい気持ちは久しぶりだ。
あの時、助けたマインを初めて抱きしめた時のように、優しくしっかりとマインを抱きしめる。
「マイン、さよならだ」
それは揺るぎのない決意だった。
返事をしたら終わりだと、マインは口をつぐむ。
何かが一つ間違わなければ、自分たちはこの関係でいる事ができたに違いない。それが惜しくて惜しくて、マインは悔しかった。
もう、それを選択することはできないのだ。
「マイン、お前と出会ったことを後悔はしない。
だけどな、これ以上は駄目なんだ。
お前もわかるだろう?
俺たちは間違ってしまったんだ、やり直せない間違いの道を歩んでしまった。
すまなかった。
本当に。
でも、どんな形にしろマイン。
お前が好きだったよ」
優しい、優しい言葉だった。声は掠れてしまっているのに、どうしてこんなに優しいのだろう。
きっと、抱きしめる腕、触れているところすべてからツガートの優しが溢れてきているのだ。
これがツガートの本来の姿なのだ。
「ツガート・・・・・・」
マインは言葉を発してしまった。
それが別れの言葉だった。
「俺はアルセン。もう一度言う」
「俺と来い」
マインは、今度はその手を取った。
-完-
マインとツガートの過去編、完結です。メインの主役なのに、アルセンの出番はちょこっとです。しかもなかなか名前も出てきませんし。
一人称、三人称入り混じっています。読みづらくて申し訳ありません。
今回のあとがきは長いです。携帯サイトの方からも少し引っ張ってきます。
この話を書こうと思ったのは、マインが人一倍寂しがりな理由を書こうと思ったからです。
最初に本編を書き始めた時は、マインの故郷がなくなるというのだけは考えていたのですが、詳細を考えていなかったので色々こじつけました。
携帯サイトではマインの年について、書いてませんでしたが、パソコンサイトでも書こうと思った際に、年齢なども整理したので、今回は書いています。
なのでマインとアルセンが旅をしたのは十年ではなく、約十年です。実際には十三年くらいになります。
この話は元々 男(ツガート)と旅をしている→男(ツガート)はネグレイト→アルセン登場 と、若干ツガートのマインに対する接し方が違いました。
最初の設定では暴力を振るいません。ただ無視するだけです。食べ物さえ与えないのでマインは弱っていきます。
ツガートは別にマインが嫌いなわけではなく、純粋に自分を慕うマインをもてあましていた。
だから、現れたアルセンにマインを預ける、という感じでした。
それが書いているうちに殴るわ斬りつけるわということに。ツガート自身も最初の設定ではもう少し寡黙なイメージでした。
とにかく、出会った頃は普通の人、というのを書きたかったのですが、後半がアレなので普通の人という印象は少ないかもしれません。
ツガートの話がここまで長くなったのは、携帯サイトで一度書いた時にアルセンよりツガートの方が好きという方がいたからです。
(アルセンの人気があんまりよくありません、私は好きなのですが)
さて、長い話なうえ、一年くらいかかってしまいましたが、読んでくださった方ありがとうございました。
(2012.1.30)