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『月を見て』

「今日は月がよく見えるな」

「月?」

 マインにつられてアルセンもふと夜空を見上げると、少し欠けた月がくっきりと目に飛び込んでくる。

「そうだな、よく見えるな。今日は月でも見ながら寝るか」

「あぁ・・・・・・あ、え・・・・・・と。アル・・・・・・セン」

「どうしたマイン?」

 すでに毛布に包まり始めていたアルセンがマインを振りかえる。

「あー、今日は・・・・・・そっちで寝ていいか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「だから・・・・・・そっちで・・・・・・」

「何だって?」

「う~~~~」

 別にアルセンもからかっているわけではないのだが、反応の悪いアルセンにマインは顔を真っ赤にして叫
んだ。

「だ・か・ら、そっちで一緒に寝ていいか? って言ってんだ!!」

「・・・・・・ほら」

 とアルセンが毛布をめくる。その何気なさに声を振りしぼったマインは口をパクパクさせる。

 やっぱり可愛いじゃないかと、アルセンはそのまま昔のようにマインを抱きこむ。

「うわ、これはいい、これはいい。アルセン、離せって」

「何だ、昔を懐かしがったんじゃないのか」

「違うって・・・・・・ちょっとな」

「・・・・・・それは教えてくれないのか?」

「秘密だ」

 ニヤリと口元を歪めるマインは、少年の頃とは違う大人の表情だった。

 昔はいつも少年のマインを抱きしめながら寝たが、さすがに自分に背も体格も追いつき始めた最近は滅多に一緒には寝ない。

 マインの方も昔はいつの間にかアルセンの所に潜り込んだりもしていたが、人並み以上に成長した今、恥じらいも手伝ってか全くそんなそぶりも見せなかった。

 だからアルセンは嬉しかった。こんな風にマインが甘える男は自分一人だろう。何やらマインには思う所があるらしいが、さすがにその理由まで分かるはずもないので、気にはしつつもアルセンは眠りに落ちた。

 懐かしい温もりを横に感じながら。




『旅の途中』

「マイン」

「・・・・・・ん?」

「このペースだとまだ野宿だぞ」

「ん~、別にいいんじゃね? それともアルセン。どっか調子悪かった?」

「悪くはないが、急げば町に着くのにわざわざ野宿を選ぶ必要があるのか?」

「でも町に着いたらしばらくゆっくりするだろ? さすがに俺だって町にいるのに野宿しようなんて思わねーし」

 今日は野宿でもいいじゃないか、というマインにアルセンはもう一度男二人の足だったら十分に間に合う距離に町はあると反論してみるが、結局はペースも早めることなくなし崩しに野宿が決定してしまう。

「お前」

「ん?」

「わがままになったな」

「はぁ?」

「昔は何でも俺の言う事に頷いていたのに」

「だー! いつの話だよ」

「ほんの六。七年年前だ」

「どこが”ほんの”だ! 思いっきり昔だろうが!!」

 アルセンの中の時間とマインの中の時間の感覚の差に、アルセンは思わず口元を緩めてしまう。

 それを子供っぽいと笑われたのだと思ったマインは、拗すねてそっぽを向く。二十歳を過ぎてこれなのだからもう少し自覚したほうがいいのだが、半分保護者のようなアルセンの前では仕方ないか。

 そんなつまらない事でずっとマインに拗ねられるのも馬鹿馬鹿しいと思ったアルセンは、誤魔化しにかかった。だてに少年の頃からマインを見ていない。

「悪かった悪かった。今のお前からは可愛さが消えたから少し寂しかったんだ」

「かわ・・・・・・、俺にそんなん求めるな!」

「本当に可愛かったんだがな」

「いいから頭なでるな!」

 これで誤魔化されるのだから、今でも可愛い。と言いたいのだが、さすがにそこはアルセンも我慢する。

 そしてそのままマインが根を上げるまで頭をなで続けた。

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